shooting star



 今日、打ち明けようと思っている。僕の気持ち。

 僕からの告白で始まった二人の時、もう十二年にもなる。中学の一年の時、出逢って初めて惹かれた。そして、我慢するのが苦手な僕は、学校生活が始まってすぐに告白した。

 彼女は、飛鳥(あすか)は一ヶ月考えた後、僕に微笑んでくれた。

 進学校の付属の中学一年であったため、幸運にも、大学までずっと一緒だった。だから、二人の愛は確固たるものになっていった。
 
 そして、今。僕が眺めているのは、手のひらに置いた、星のモチーフをあしらった指輪。

 ―――そう、婚約指輪。

 僕はこれを渡すとき、ちょっとした馬鹿をしようと思っている。とても言うことは、恥ずかしいのだけど、やはり、僕の性格から言っても、彼女の性格から言っても、こういったプロポーズが一番良いと思う。

 だから―――。


* * *


 太陽が傾き、空が赤く染まって早数時間。もう、空は暗くなりかけて居る。一番星が既に輝きをおびていた。

「ちょっとドライブしようよ」

 僕の計画が始まった。

「うん、いいけど…。何処にいくの?」

「ヒミツ」

 僕は笑った。彼女は小鳥のように、首を傾げる仕草をみせた。

 今日は満月の夜。雲ひとつない空だった昼間。従って、今日の星空は最高のハズなのだ。

 車を走らせる。風を切る音と、彼女の髪の香りが混ざり合って、僕の鼻腔を甘くくすぐっていた。空は既に紺色に染まっていた。

 行き先は、海に面していて、周りにはビルはなく、空を見るにはうってつけの場所だった。夜空を映す、漆黒の海。地上に広がるもうひとつの空。それらが溶け合っている地平線の向こう側を見ながら、僕はプロポーズをする。

 良い返事は聞けるだろうと、淡い期待を胸に秘めている。それは傲慢な考えだということは、重々承知している。けれど、これまでの、僕らの軌跡がそんな想いを漠然と抱かせる。仕方のないことなのだろう。

 そんな想いを胸の内で廻らせていると、もう目的の公園に着いていた。丁度陽は傾ききって、空には満点の星空が広がる。

 僕の計画はもう中盤に差し掛かっている。

「あ、飛鳥ちょっと空見てごらんよ。綺麗だよ」

 そういって、空を指差す。

「え…? わぁ…。スゴイね、涼(りょう)!」

 そういって、屈託もなく笑う飛鳥。

「そうだね」

 笑う僕。

 空には満天の星。そして、僕は徐(おもむろ)に虚空を指差す。

「あ、流れ星!」

 そうはいったが何処にも星は流れてはいない。まったくの嘘なのだ。しかし、素直で少し天然ボケが入っている彼女はしっかりと僕の指し示す方向を見向く。

「もう消えちゃったね」

 僕は言う。

「そう…。流れ星って、何処にいくんだろ…。見たかったな…」

 飛鳥が呟くように言う。

「…見せてあげようか? 何処に落ちたか知ってるんだ」

 なんて、得意げに言う僕。

「え〜、見たい!」

 "そんなこと無理だろう"なんて瞳で僕を見る飛鳥。僕は微笑みながら、そっと指輪の入ったポケットに手を差し入れ、それを持ち出して蓋をあけて、飛鳥に見せる。そして、ずっと考えていた言葉を、初めて飛鳥の前で紡ぎ出す。

「ほら、僕らのところに飛んできたんだよ、あの流れ星は。どうかな、僕みたいな男には星なんて似合わないから…。飛鳥、貰ってくれないかい?」

 時が止まった。

 星が一つ輝いた。風が潮の匂いを届けてくれた。あとは…、神様、僕の心を伝えてください…。

「……あ、」

 飛鳥がその瞳に涙を溜めながら呟くように言う。

「…ありがとう…。私、うれしい…っ!!」

 そして僕らは抱きしめあった。

 仰げば、空には数え切れない星が光を競い合っている。そのうちの一つが僕らのような物語を生み出したのだとすると、世界には、あといくつの物語があるのだろう。

 …もっとも、僕ら以上に幸せな物語がこの世界の何処にもないってことは、明白なのだけど。


 時が流れて、僕らの間に子供が出来たらきっと、話してあげようと思っている。今夜の恥ずかしい話を。僕が。僕らがこの抱き締め合った瞬間、どんな幸せだったかって、ことを。


 

ホーム| 短編INDEX| WEB CLAP |


2009年10月28日:デザイン改修
2006年08月05日:デザイン改修