卒業式のその後で



 卒業式も終わり、中学生生活最後のホームルームも終わった。

 俺はこの三年間の殆どを共にした、気の知れた仲間たちと帰路に着いた。いつもと少しも変わらない会話が、却って切なさを誘う。

 

一歩一歩と、俺の中学生生活が終わっていく。

 
 
 今日まで使い続けた廊下。何故か立ち話をする機会が多かった踊場。窓から射しそめる太陽の光。夕焼けの赤さ…。


 

全部、覚えてる。

 

 もう二度と、歩くことが叶わないかもしれない廊下を、一歩、また一歩と感触を確かめながら歩く。

 そして、不意に思い出す。

(告白、できなかったな…)

 そう。俺は未だ、好きな人に思いを告げていない。
 もうこの場所での生活が、終わってしまうと判っているのに…。

 結局、未練ばかりが残る卒業だった。

 そうして、最後の一段を下りてしまうと、俺の鼓動は高鳴った。
 何故なら目の前に俺の好きな人、小島 彩(こじま あや)が居たから。

 終わってしまう時間を惜しむかのように、しかし決して寂しさの色をたたえることなく、友達と三人で談笑している横顔を見ると、身を引き裂く程の切なさが込み上げてくる。

 それなのに、どうしても後もう一歩、小島へ踏み出す為の勇気が沸いて来ない。だから俺は、仲間たちの歩調に合わせ、その場をやり過ごそうとした。

「あっ…」

 …やり過ごそうとした。諦めようとしたはずなのに、小島の声が俺を立ち止まらせた。

 横目で盗み見た小島の表情には、焦燥がはっきりと浮かんでいた。彼女の二人の友人はそんな小島を見て、小島に何か耳打ちをしている。

 小島は二人の友人の顔を交互に見て頷くと、小さく一歩を踏み出した。歩幅の小ささをもどかしく思ったのだろうか、二人は小島の背中を押した。

 それで弾みがついたのだろう、小島は少し臆病な歩調で、しかし確実に俺たちの方に向かってきた。

 いや、歩き出せずに小島の方を見ている俺に向かって、真っ直ぐに歩み寄ってきた。

「あの…、山瀬くん」

 小島が俺の前に立ち、俺の名前を呼んだ。それだけなのに、胸が高鳴るのを感じる。

「あの、あのね…。第二…ボタン、くれないかなぁ?」

 小島は真っ赤な顔をして俯き、上目遣いに俺を見つめる。


(そっか…、気持ちは同じだったんだ!)



 掌をきつく握り締め、自分の持つ有りっ丈の勇気を振り絞って、彼女の名前を呼んだ。

「…小島」

「え…」

「ボタンと一緒に、俺もどうだ?」

 その言葉の後、一瞬の静寂が訪れた。小島はその刹那に驚きと羞恥で目を白黒させ、しかし最後には笑顔を浮かべた。それなのに、彼女の目には、涙があふれていた。

 

小島は、…いや、彩は次の瞬間、俺の胸に飛び込んできた。



 
辺りを歓声が埋め尽くす。




 
俺はそっと、彩の肩に手を置いた。
 
 

 
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2009年10月28日:デザイン改修
2004年10月13日:加筆修正