中編恋愛小説>月明かりの下で>第03話「綾香、真也の事情」

綾香、真也の事情




「瀬戸さんは、その…。こんなこと訊いていいのかな…」

 綾香は首を傾げる仕草をした。

「何?」

「その、先輩のこと、なんだけど…」

「あ…」

 綾香の表情のかげりを見て、真也は慌てた。

「いや、ごめん! 俺ってデリカシーなくって! ホント、ごめん!!」

「あ、いいの。気にしないで。そうだよね…」

「え?」

「全部話しちゃった方が、すっきりしそうだし」

 それを聞いて、真也は胸をたたいた。

「あ、それならどんどん話して! 俺だったら瀬戸さんの痛み、分かるよ!」

「ホント?」

「うん。だって、同じ痛みを知ってる人間だよ? さぁ!」

 綾香は苦笑した。

「そうだったね。じゃあ、聞いてくれる?」

 真也は頷いた。綾香は目を瞑り、一つ深呼吸すると意を決したように話し出した。

「あれは、入学式の時だったの…。新入生への言葉ってあるでしょ?」

「うん」

「そこであの人に出逢ったの。真面目そうな人だった…」

「瀬戸さん、真面目そうな人が良いんだ?」

 綾香は苦笑した。

「うん…。でね、次は体育祭。あの人は、精一杯走って、一位を取った
の。その時、初めて気にしだして…」

「うんうん」

「決定的に好きになったのは、文化祭だったの」

 懐かしむような表情で話している。そんな綾香の横顔に、真也は心を奪われていた。

「屋上ライブっていうのが毎年あってね、そこであの人が歌ってたの」

「はは〜ん、その歌声に惚れたのかい?」

 真也はニコニコした顔で訊ねた。

「それだけじゃないけど、大体はそうだなぁ」

 そして、恥ずかしさを隠すため「えへへ」と笑った。

「真也くんは?」

「は?」

「だから、真也くんはどうだったの?」

「俺? 俺はさ、同級生の子。放課後にコクって、OKだったから付き合ってたんだけど、付き合ってくうちに冷めちゃったらしくて。で、フラレたってわけ」

 手をひらひらと振りながら、もう忘れてしまったかのようにあっさりと語った。

「何か、あっさりしてるよね…」

「え?」

「だって、別れたばかりでしょ?」

「そうだけど、もう、うさぴょんに助けて貰ったからさ」

 真也はさらりと言った。

「え…」

「普通は体験できないような、すごいことになってるじゃん、今さ」

 綾香は頷いた。

「だったら、この時間を楽しむしかないでしょ? せっかく、同じ境遇の人と出逢ったんだしさ」

 綾香は微笑んだ。

「うん、そうだね!」

 お互いに、心を許しあえたのは、この時だった―――。


* * *


「うさぴょん、なかなか良い雰囲気だね、あの二人」

「うん、そうだね。もう二人とも、ずいぶん近くなれたよ」

「心の距離がね」

「うん」

 二人(?)のぬいぐるみは、綾香達が居る雲の少し上から、二人の様子を伺っていた。

「僕らが居なくても、大丈夫だよね」

「そうだと良いけど、もう少し、見守ろうよ」

「うん、そうしよう。また、明日からよろしくね」

 うさぴょんは小さな手を差し出した。熊太郎はその手を握り返した。

「うん、明日からまた、近況報告だよ」

「そうだね」

 二人はまた、下を覗き見た。綾香達は楽しそうに、踊っていた。


 ラジカセはまた、軽快なリズムを生み出す。真也も綾香も、楽しそうに踊っていた。

「面白いよ、真也くん!」

 綾香は独自のステップで、楽しそうに踊っている。真也はプロのダンサーのように、様々なアクションをする。それを見て、綾香は感嘆の声を上げた。

「すごぉい! 真也くん、プロのダンサーみたい!」

「あはは、プロ目指してるんだ!」

 綾香はダンスをやめて、真也のアクションを見守った。

「私、どうしちゃったんだろ…」

「え?」

 真也は動くのをやめて、綾香を見つめる。

「どうしたの?」

「なんか、男の子と話すのって苦手だったのに、真也くんとはすごく、普通に話せる…。どうしてだろ?」

「…俺も何か知らないけど、瀬戸さんとなら、本音で話し合えるんだ…。ホント、変だよね」

 二人はそれっきり黙りこんでしまった。何か話さなきゃ、と思うのに言葉がでない。

 夜は次第に明け始める。少しずつだが、太陽が顔を出し始めた。

「もうさ、あまり時間がないらしいね」

「…え?」

 その呟きを聞いた真也は空を指差した。上空からは、熊太郎とうさぴょんが降りてきていた。

「そろそろ帰ろうか、綾香さん」

 熊太郎がそう伝える。

「私達も帰りましょう、真也」

 真也もあやかも、不安そうな顔をした。

『もしかしたら、もう会えないかもしれない…』

『私、真也さんのことが、好きなの…?』

 二人とも、胸の高鳴りを覚える。これは、あの人を、彼女を好きだったときにも感じた、あの感情だ。

「待ってくれ!」

「待って!」

 二人とも、同時に声を上げる。ハッとする。

「いいよ。ね、うさぴょん」

 二人のぬいぐるみは頷きあった。

「でも、5時までには終わらせてね」

 真也は腕時計に目を向けた。

「あと、10分…」

「うん…」

 真也は心で自分に訊いた。

『もう会えないかもしれないんだぞ、いいのか…』

「イヤだ!」

 突然大声を上げた真也に、皆驚いた。

「どっ、どうしたの?」

「瀬戸…、いや、綾香さん!」

「え?」

「俺と…!」


* * *


 いつの間にかまた、眠ってしまったらしい。熊太郎は苦しそうな顔をしていた。

「……真也…」

 寝ぼけて、つい自分の彼氏の名を呼んでしまう。

 1階で電話がなっていた。母が取ったようだ。

「綾香ぁ〜、天木さんって人から電話〜」

「あっ、すぐ行く!」

 受話器のところまで、急いで走る。電話の隣では、母がにたにたしていた。口パクで『彼氏?』と訊いている。それを無視して受話器をとる。

「はい!」

『あ、綾香?』

「はい!」

「一つだけ、言い忘れてた」

「え、何?」

「そのままのお前が、一番好きだぜ」

「何言うのよ…」

 綾香は受話器に向かって笑みを浮かべた。


 

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2010年02月05日:デザイン改修

この作品はまきさんの原作をもとに、ストックがお話をつけたものです。この場をお借りして、まきさんにこの上のない感謝を申し上げます。