中編恋愛小説>月明かりの下で>第02話「雲の上の出逢い」

雲の上の出逢い



「それで? どうなったの?」

 母親は未だ聞いてくれていたが、父親はうとうとしていた。

「この先?」

「そう」

 母親は瞳を輝かしている。そんな母に、悪戯っぽい笑みを浮かべた綾
香。

「私だけの、思い出にするよ」

 綾香はそういうと、二階へと素早く戻って行った。母は残念そうにため息をついた。

「とにかく、無事でよかったですね…」

「ああ」


「ね、熊太郎。今日は楽しかったよ」

「………」

 熊太郎と呼ばれたぬいぐるみは喋らない。

 綾香は熊太郎を抱きしめてベッドに倒れこむと、目を閉じて回想していた。


* * *


 雲の上。綾香と熊太郎は音楽がする方向に向かって飛んでいた。

「何があるのかなぁ〜」

 綾香はウキウキしていた。

「早く見たいよね」

 熊太郎もそれは同じだった。

 月明りに照らされて雲の上は真っ白く輝いていた。その上を通り抜ける度、二つの影がついていく。そして、少し行った先にはまた、二つの影があった。

「え?」

「えっ?」

 綾香も驚いたが、相手も驚いた。

「貴方、誰?」

「君、誰?」

 二人の声は重なった。

 男の子はとめどなく音を生み出すラジカセを止めて、綾香に向き直った。

「えと…、やあ」

「あ、うん…」

「俺…、天木真也(あまき しんや)。あの、このうさぎのぬいぐるみに連れられてきたんだ。…君も?」

 真也と名乗った男の子は無垢な瞳を持った青年だった。

 ブラウンの綺麗な髪。短く切りそろえてあり、今時の高校生という感じだ。少し大きな目が可愛らしい。背は結構高い。

「あ、私瀬戸綾香…。あの…」

「ん? ああ、何でぬいぐるみ持ってるのか、って?」

 真也は微笑んだ。

「え、あ、うん…」

「これさ、小さい頃におばさんが買ってくれたんだ。まだ赤ちゃんだった頃」

 隣にいる小さなうさぎのぬいぐるみが真也を見上げている。

「おばさんさ、俺が生まれたら即駆けつけてさ。男か女か聞かないうちに出産祝いを買っちゃって、ついてみたら男だった、ってこと。女の子が良かったらしいなぁ」

「はあ…」

 綾香は真也の話を聞いて、呆気にとられていた。初対面の人によくもまぁ喋ること。

「あっ、ごめんごめん。俺、フラレたばっかで落ち込んでるんだ」

「…え?」

 綾香は『フラレた』という単語に反応した。

「綾香」

 熊太郎がうさぎのぬいぐるみの隣から話し掛ける。

「え、何?」

「僕、うさぴょんと少し、遊んでくるね」

「えっ、ちょっ…」

「大丈夫、少ししたら戻ってくるよ」

「真也、私も行ってくるね」

 そう言い残すと、熊太郎とうさぎのぬいぐるみ、うさぴょんは星屑の彼方に消えていった。

「あぁ、うさぴょんっっ!」

 真也は星に向かって手を伸ばした。少しからだも浮いたが、すぐに降りてきてしまう。綾香と真也は見詰め合い、苦笑した。

「あはは、行っちゃったね」

「ホント。ぬいぐるみ同士って、気が合うよね、やっぱ」

「うん」

 二人は雲に腰掛けて、空を見上げた。

「…都会の中じゃあこんな綺麗な星なんて、みえないよね」

 ふいに、真也がそうこぼした。

「うん。見上げれば高層ビルとか、ネオンの光にかきけされちゃってるよね」

「そうそう」

 綾香は雲の下を見つめた。

「………」

「どうしたの、元気ないね?」

 真也が訊く。綾香は苦笑すると話し始めた。

「あはは…。やっぱり分かっちゃう?」

「うん、スッゲー悲しそうだった」

「私も一緒なの」

「?」

「私ね、失恋しちっゃたんだ…。前から大好きだった先輩なんだけど。『彼女居るから』って、断られちゃった」

「…あっ」

 真也が困った顔をする。

「あっ、いいの。この雲の上に来てから、全部乗り越えられたから」

「そっか…。瀬戸さんって、強いね」

 真也は星を見上げて呟いた。

「俺なんか、付き合って4ヶ月の彼女にいきなり『他に好きな人できたから、別れて』っていわれたんだ。ショック大きいし。まだ、振り切れないよ」

 悲しげな顔。綾香は『私がお父さんと話した時も、こんな顔してたのかなぁ』と思っていた。

「お互い、辛いよね」

 真也が言う。綾香も頷いた。

「もしかしたら…」

「え?」

 綾香は遠くを見つめていった。

「あの二人が、私達を引き合わせてくれたのかもしれないね」

「…うん」

 真也の中で、失われてしまった感情が再び息を吹き返した。


 

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2010年02月05日:デザイン改修

この作品はまきさんの原作をもとに、ストックがお話をつけたものです。この場をお借りして、まきさんにこの上のない感謝を申し上げます。