長編恋愛小説>バーチャル・ガール>第02話「プロローグ・後編」

プロローグ・後編



「こんなもんかなぁ〜?」

 今、潤の前には一人の女の子が居た。パソコンのモニターの中に。

「文見るとこんな感じだよな…」

 ゲームのウインドウを最小化すると、メーラーが隠れていた。プレビューされているメールの文体は、どうやら女の子のもののようだ。潤は頭の中で読み返した。

(やっほー、潤くん!! 結菜だよっ。今日学校でね、フルーツバスケットしたんだ! でね、一人ケガしてて、参加できなかったの、その子、楽しみにしてたのに、ってくやしがってね、松葉杖振り回してたんだよ!(笑) 何か、『見てはいけないもの』を見てしまった、って感じ?!)

 潤はこの部分を読む度に笑った。

(と、ここまでが私の、今日の出来事だよ? 潤くんも、何かあったら教えてね!! バーイ☆)

 潤は椅子の背もたれに寄りかかってふぅ、とため息をついた。続いて瞳を閉じ、指で軽く押す。

 結菜とは、潤のメル友だ。一ヶ月程前に、結菜からのメールで知り合い、メール交換を続けている。

(結菜ちゃん…。逢ってみてぇ)

 そう。潤の心には、一度は逢いたい、という欲求が生まれていた。そう思ってしまうのは、人の性というものだろう。

 しかし、毎度ながら上手くかわされている。「明日はピヤノの発表会だ」とか「家族旅行の日なの」とか。こうまで続くと、もはや避けられていると感じるのは当たり前ではないだろうか。

 しかし、潤とメール交換を続けているあたり、まんざらでもなさそうだ。そんな二つの想いの中で、潤はもんもんとした時間を送っている。

「ふぅ…」

 今日二度目のため息をついてメーラーを最小化し、再びゲームを開始する。

 髪型はロング。青いヘアバンドをしている。細めの眉で健康的なピンク色の唇が印象的だ。

「ん〜、手の加えようがないし。後は向こうに送るだけか…?」

 何となく納得出来ずにいたが、一応送ってみることにした。ファイルの中にある「圧縮して送信」の項目を選択した。しかし、エラーが出る。どうやらまだ、設定していない部分があるようだ。

 潤はメインフィールドのいたる部分にクリックの嵐を降らせた。と、モニターの中の、女の子の顔をクリックした時に、ドロップダウンメニューが出現したではないか。数項目あったが、選択できるのは「女の子の詳細」という項目のみだ。潤はそこを選択した。

 と、新しく小さなウインドウが出現し、いくつもの選択式項目がある。潤は王道の一番上から始めるという行動に出た。

 最初の項目。性格の設定。潤は六つあるうちの一つ「おしとやか」を選んだ。

 次は口調。「おしとやか」な性格で「コギャル風」を選択するのはいかがな物かと考え、妥当な「明るい」を選んだ。「静か」でも良いのだが、この組み合わせにしてしまうと「お金持ちのお嬢様」になりそうだったので、一応その王道な組み合わせは回避した。

 続けて行動力。ここもおしとやかに習って「消極的」を選択。

 次はボディサイズ、俗に言うB.W.H.だ。ここは詳細に設定できるようだが、そのあたりは勉強不足(?)な潤なので、右端についている簡易ボタン「スレンダー」「ノーマル」「グラマー」と三つあるうち、潤はお好みの「スレンダー」を選択。肌の色は勿論、そのまま真っ白で。

 最後にOKのボタンを押すと、プレビューされていた女の子の容姿が若干変わった。口調の「明るい」から全体のイメージが変わったということなのだろうか?

「そしたら、このままじゃ変だよなー」

 潤はそう呟くと、髪型を変更した。長い髪はそのままにして、ポニーテールにしてみる。

「うん、いいじゃん」

 頷くは、その女の子のイメージにあったリボンの色を選択する。結果として、黄色を選んだ。

 すると、女の子の印象はガラリと変わった。

 「消極的」なハズの女の子は、外見では活発に見える。それも、ポニーを作っている大きなリボンのせいだろう。全体的にほっそりとした体で、真っ白い手が印象的に映る。

 潤は思わず見入ってしまった。自分で作ったにしては完璧だ。

「よし、サイコー」

 そう呟くと、潤は一旦ベッドに入った。長時間イスに座っていて疲れたので休むためだ。

「ん〜〜〜〜…」

 潤はベッドの中でごろごろすると、急に立ち上がりまたパソコンの前に座る。続いて、先にしたようにファイルから「圧縮して送信」を選択する。と、圧縮が開始され、程なく終了する。小さな警告ウインドウが「インターネットに接続していません。ここで接続しますか?」と問い掛けている。潤は迷わず「Yes」を選択した。

 インターネットに接続されると「MMG専用サーバに接続します」と警告され、程なくブラウザが立ち上がり、現在の送信状況がプレビューされた。送信速度は非常に早い。

 やがて送信が終了すると、新しいページが表示された。

『データは確かに受け取りました。こちらでは準備がすすめられています。明日、またメールを送らせていただきます。ご利用、ありがとうございました』

 潤は全文を読むと、ネット回線を切断しパソコンの電源を落とした。続いて何をするかと思えばベッドにもぐりこむ。

「あ゙ぁ〜、だりぃー…」

 その呟きを最後に、潤は浅い眠りに入った。

 

* * *

 

「…ん…。…?」

 気が付くと時計の針は夜の10時56分を差していた。

「お…。ナイスタイミング、俺…」

 ベッドからのっそりと起き上がると、再度パソコンを起動する。そのまま椅子に座ると、パソコンが立ち上がるまでぼぉーとする。

 やがて立ち上がったパソコンの時刻を見ると、58分。

「2分もかかったよ」

 と、苦笑する潤。

「もうちょいでテレホだな…」

 そう呟くは、潤は「バーチャルガール」を起動した。完成した女の子を見ると、思わず鼻の下が伸びてしまう。

「でも、これで後はどうなるんだ?」

 ふいに、降ってわいた疑問。潤は腕組みして唸りながら首を傾げた。

「ん〜〜〜〜〜…。わからん」

 その言葉を終止符にし、ゲームを終了した。ウインドウの「×」ボタンを押す。ありきたりな警告ウインドウの「Yes」を押した。

 時間をちらっと見る。すでに11時を回っていた。

「お、じゃあ早速始めますか!」

 潤は早速インターネットに接続した。

 最初にフリーソフトのダイヤルアップツールを起動し、IEのショートカットをダブルクリック。ブラウザが立ち上がると、「メール」ボタンをクリックし、メーラーを起動する。ここでインターネットへの接続をするのだ。

 そして、ブラウザの「お気に入り」から「MMG」のHPを選択する。と、「インターネットに接続していません」という警告ウインドウが現れた。メーラーをクリックする。と、ここで丁度「認証中」になるので、後は警告ウインドウの「再接続」をクリックするだけだ。これが潤の「無駄の無いインターネット接続法」だった。

 インターネットに繋がると、起動していたブラウザが待ってましたとばかりに選択していたHPを開いた。

 しかし、ブラウザにそのHPが開かれた途端、また違うHPが自動的に立ち上がっている。純は慌ててブラウザのバックボタンを押すが、一向に機能しない。

「どうなってんだよ、これ!」

 潤の応戦も虚しく、新しいサイトが立ち上げられた。よくみると、「MMG」のHPだった。

「なんだ…」

 潤はひとまず安心した。

「新手のウイルスかと思ったよ…」

 そう呟くと、HPに記載されている文字列を脳で読み上げていった。

(『マイノ ジュン様へ データ、受け取りました。当方としても気に入っていただけたようで大変嬉しいかぎりでございます。また、デートのα版とした試作品を近日中にお届けいたします。お試しください。では。  MMG』)

「アルファ版?」

 潤はその言葉に強く反応した。

「アルファって、何? 何送ってくるっていうのさ…」

 様々な疑問が浮かぶ。しかし、一つとして応えは出てこなかった。

 音声独特の表現、抑揚。それが感じられない文字だけの会話というものに、潤は初めて不安を感じた。


 

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2009年10月28日:デザイン改修