長編恋愛小説>バーチャル・ガール>第01話「プロローグ・前編」

プロローグ・前編



 ゆっくりと陽(ひ)は落ちて行く。真っ赤な空の下には、いくつもの人影がある。

「………」

 その中で、彼。舞野潤(まいの じゅん)は友達と別れ、一人で帰路についていた。

 少し長い、そう、眉にかかるくらいの前髪。背は高く、筋肉が少しついている。顔つきは優しい。

(沖田もバカだよなぁ…)

 今日、学校であったことを回想しながら苦笑する。

 やがて、家の前に着いた。ふと郵便受けを覗いてみると、一つの大きな茶封筒が入っていた。

「何だ、コレ…」

 宛先は…。

「俺…?」

 続いて送り主…。

「書いてないや…」

 宛先は自分。送り主は不明。しかし、雰囲気が潤をとらえて放さなかった。

「開けてみるか…」

 潤はそれを鞄にしまい、自分の部屋に入っていった。

 

* * *

 

 ここは潤の部屋の中。

 これといって特徴のない、言ってみれば標準的な部屋だろう。

 窓際にはベッド。その近くにはCDコンポが置いてある。

 勉強机の上はきちんと整頓され、乱れがない。そして、その隣には愛用のパソコン。潤は鞄を机に置くと、まず最初にパソコンの電源を入れた。

 パソコンが起動する間、潤は先程鞄に入れた封筒を取り出し、封を切る。中身は…。

「CD-ROM…?」

 その表紙には『バーチャルガール・舞野潤様』と書かれている。一通の手紙らしきものが入っていた。早速目を通す。

『舞野潤様

今回、無礼を承知ながらこのような形で発送させていただきました。まず、お詫びいたします。

さて、このCD-ROMについて、説明をさせていただきます』

 潤はそのまま続きを読む。

『このCD-ROMは日本の中の、片思いをしている人を独自で調査し、その中で貴方。舞野潤様が選ばれました』

 潤は怪訝な顔をしながら読み続ける。

『世界で一枚しかない、貴重なCDです。一度ご使用ください

では、短いですが、これにて。質問などは、E-mailで受け付けております』

 その最後には、メールアドレスとホームページ(以下HP)のアドレスが記されていた。「P.s.」と題してもう一言。

『P.s.遊び方などの詳しい資料は、当HPにあります。お手数をおかけしますが、こちらにて一度、ご確認ください』

「何だよ、コレ…」

 そして、もう一枚紙が入っていたが、よくゲームなどについてくるセットアップ方法の詳細だった。潤は早速、立ち上がったパソコンのCDドライブにそのCDをセットする。

 当然の如くオートラン対応だったので、楽にセットアップは進められた。

「えっと、Yes…。CドライブでOK…」

 詳細を設定し、早速セットアップを開始する。時間はそこまでかからないだろう。潤はこの間に私服に着替えた。

 やがて、セットアップは終了し、デスクトップに生成されたショートカットをダブルクリックする。

 すると、軽快なリズムの音楽が流れ始め、続いて少し大きめなウインドウが立ち上がる。潤はウインドウに表示されている「新規作成」のボタンをクリックする。

 一度、ウインドウが暗転し、続いて、ウインドウ内のフィールドが四つに分裂した。

 右上に、メインのフィールド、その真下にメッセージフィールド。それらの左側に、何やら訳のわからない文字表示がされている。そのフィールドの下は、プレビューを表示するためのものだろう。

少し、その文字列を観察する。

拡張子が「.mmg」という、見たこともないものになっている。多分、独自に開発したものだろう。

 潤は、取り敢えず、その拡張子がついた文字列を最先端をクリックする。パソコンユーザーには見慣れた、青の反転色に変わる。すると、やはり下にあるフィールドに、何かの画像が表示される。そのプレビューを眺めながら、キーボードの「↓」を一定の間隔で押していく。

「っていうか、何、このゲーム…」

 一通り見終わると、潤はそう呟いた。

「…なんていうか、ギャルゲー?」

 潤はそう呟くと、早速このゲームを作ったところのHPに行くことにした。

 ウインドウの最小化ボタンを押すと、タスクバーに収納される。続いて、ダイヤルアップツールを起動させ、「接続」ボタンをクリックする。すると、ISDN特有の効果音が鳴り響く。少しボリュームを絞った。

 その間、潤はメーカーのアドレスを入力していく。かなり早い上、ブラインド・タッチだ。

 やがて接続が確定する。即座に「Enter」を押す。すると、少ししてメーカーのHPにアクセスされる。

 潤はまず、カウンターの値に驚いた。既に立ち上げて3ヶ月も経とうとしているHPが、hit数、たったの「3」なのだ。潤は苦笑する。ちなみに、最終更新日が表記されていたことを断っておく。

 気を取り直し、説明書と表記されているリンクをクリックする。次に表示されたページには、ジャンルなどが詳細に記入されていた。それらを要約すると、こうだ。

『ジャンル:彼女作成ツールβ2 価格:未定』

 そして、その下にはこのゲームの紹介文。

『貴方の理想の女性を作りませんか?』

 まず、大きくそのフレーズが書かれている。潤は目を疑った。

「作るって…、ゲームで?」

 取り敢えず、読み進める。

『このゲームで告白の練習するも良し、ゲームの中で恋をするも良し。全ては、プレイヤーの貴方次第です』

「俺次第…?」

 そう呟き、読み続けていった。

 

* * *

 

「大体分かったけど…」

 潤はそのHPに、一通り目を通していた。しかし、大雑把に読んだので、理解しきれているとは思えない。潤はフリーソフトを使い、そのHPを保存していく。既に接続時間は1時間半…。テレホーダイタイムではないので、少し電話代が気になっている。

 保存が終了すると、潤は最後にメールチェックを始めた。メーラーを起動し、送受信のボタンをクリックする。

(今日は何通来てるかな?)

 最近、メーリングリスト(ML)に登録したので、一日の送受信数が多くなっている。

「おっ、24通か…」

 まあ、潤にしてみれば多い方だろう。少し時間を使い、全てのメールを受信し終える。潤はすぐに回線を切断した。

 続いて、届いたメールをチェックする。

 大方は、予想通りMLのものだったが、一通、その類ではないものが来ていた。

「MMG?」

 聞き覚えのない名前なので警戒して、ウイルスチェックを行ったが、心配はないようだ。早速開いてみる。

『舞野潤様

早速、私達のHPに来ていたたき、心ぐるしい思いです。本当にありがとうございました』

 潤は眉間のシワを寄せた。

(なんで、んなこと分かるんだよ…?)

 アクセスログで、そういうこともわかると聞いたことがある。それにしても、タイミングが良すぎる気もする。

『さて、もうお好みの女の子はおつくりになりましたでしょうか? それでしたら、早速ゲームの圧縮機能を使って当方に送っていただけないでしょうか? データ送信機能も、そのゲームに同梱されています』

 その後は、操作方法が詳細に語られていた。そして、そのメールを閉じる。

「じゃあ、早速作りますか…」

 潤はデスクップを見つめて、設定を始めた。


 

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2009年10月28日:デザイン改修