長編恋愛小説>Love's Form〜愛の形〜『虚像』>第04話「After that...」

After that...



 あれから馨は、瞳のもとへ戻り、全てを話した。瞳は自分のことのように聞き、真剣な眼差しで答えた。

「…世の中には不思議なことも、あるのよね、実際に…」

「………」

「ちょっと、寄りたい所があるんだけど…。良い?」

 馨は、無言で頷いた。

* * *

「それは多分、強い意思があったんじゃないの?」

「どういうことです?」

 馨は逆に、質問した。その老婆は答えた。

「多分…、多分だよ。その子はずっと、病室に一人っきりじゃなかったかい?」

 馨は思い出した。確かにあの部屋は、大きな部屋に、ひとつだけのベッド。本以外の娯楽ものは、何一つとしてなかった。

 馨は老婆の顔を見て、頷く。老婆は続けた。

「なら、答えは一つ考えられる。それは、人が恋しかったんだよ」

「…え?」

「つまり、コニミュケーションが取りたかったんだ。…先生、その子は高校に、1回も来てないだろ?」

 瞳は話しをふられ、慌てて調べた。すると…。

「…確かに…」

 瞳は愕然とした。確かに、ここを紹介したのは自分以外の何者でもない。真剣な眼差しで話しを聞く。

「それも、中学生の時くらいからかな? 入試なんて、受けてないはずだ」

「えっ?」

 馨と瞳の声がかさなった。

「多分、その子は大富豪の孫。学校は多分…。分かるだろ」

 女性は右手の親指と、人差し指でジェスチャーをした。二人はうん、と頷く。

「そんな極限状態に陥った時、人間ってーのは、凄い力を発揮するもんだよ。…坊や、何処であったんだい?」

 馨はすぐさま、「学校の、中庭の木の下で…」と答えた。老婆はさらに続ける。

「少し、向こう側が透けて見えただろう?」

 馨は強く頷く。

「やっぱりな。そりゃ、テレパシーの実体化だよ」

「て、テレパシー??」

 瞳がまさか、といった表情で声を上げた。老婆はそんな瞳を無視して続けた。

「俗に言う、『虚像』って奴だよ。それだけ、その子の意思がよっぽど強かったか、もしくは、あんたに少しばかり、力があるか、だよ」

 馨は自分を舐めるように見て、歩との過去に浸っていた。

 老婆は瞳に目で合図をし、二人を返した。老婆は複雑な表情で、ポツンと吐いた。

「…もう一度、逢うんだろうね」

* * *

 とある病室。そこには年老いた男が居た。外で、微かに医師達の話し声が聞こえる。

「もう、長くないだろう。あの爺さん…」

 それは、60年後の、馨の姿だった。やつれ果てて、無気力に、視線は宙を漂っている。まるで何かを、空にもとめるように…。

(もう、疲れたよ…。早く、死んじまいたい…)

 そう思うと、やがて、馨の意識は薄れ始めた。遠のいていく意識の中で、若かった頃の馨が居た。誰かに向かって笑いかけている。それは、とても綺麗な少女。いや、意識の中に居るのは、若かった頃の馨と、同じくらいの年だろう。その女の子は、どんどん遠くにいってしまい、若い頃の馨は追い付けず、唯、消えたあたりの空を見据えていた。すると、どうだろう。瞼の裏側に、明るい光が広がって、それはどんどん大きくなっていく。

 しかし、馨は瞼さえ、開くことも出来なくなっていた。しかし、光は容赦なく広がって行く。

 そして、光が辺りを包み込むと一瞬、闇が広がり、次に明るくなった時は、何処かで見た覚えがある景色が広がっていた。馨はすでに、忘れていたが、そこは、高校時代に過ごした場所。中庭だった。

 年老いた馨は、あの頃、よく座って本を読んだ、あのベンチに腰掛けていた。前方にたっている、木の下に、美しい女性が立っていた。こちらを見て、微笑みながら…。

「…ね。また、逢えたでしょ?」

 その瞬間、馨は静かに息を引き取った。


 

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2009年10月28日:デザイン改修