長編恋愛小説>Love's Form〜愛の形〜『虚像』>第03話「一瞬でも逢えたから」

一瞬でも逢えたから



「ここだな…」

 馨の前の病室。そこには確かに「仲里 歩」と記されている。馨は一息つくと、ドアのノブを回した。

「うううぅぅううぅ…」

 そこには、白いハンカチで顔を覆われた、女の子が居た。馨は入ってはいけない空間に足を踏み入れてしまったような気がして、硬直した。

「…どちら様ですか…」

 涙声の老女の声がした。馨はまず、確認した。

「あの…。仲里歩さん、ですか…?」

 老女は頷いた。

「………」

 馨は言葉を失った。年老いた男は、馨に、ハンカチを取った、少女の顔を見せた。

 悲しいことに、やはり…。

「…歩…ちゃん…」

 だった。男は、馨がそう吐くと、すぐハンカチを戻した。

「遅かった…ね…」

 自然と、涙が込み上げて来る。馨はそれを拭わず、頬を伝うままにして、歩の亡骸を眺めていた。

「ごめ…ん。ちゃんと…、一緒に…」

 その時、声が聞こえた。

『ありがとう…』

 馨はハッとする。

『小説の中だけのことじゃ、ないよ。私は、今、ちゃんと、ここにいるから…』

 その時。世界の時間が止まった。馨の前には、歩の姿が現れた。

「歩ちゅん…」

「ね? 言ったでしょ? …待ってる、って」

 馨はそっと、歩を抱きしめようとした。…しかし…。

「えっ…?」

「ごめん。もう、死んじゃったから…」

 そう、馨の前にいる歩は、まぎれもない、歩の『虚像』…。

「でも、最後の最後に、逢えて良かった…。このままじゃ、成仏できなかったしね」

「………」

「また、逢いに来るよ。その時まで。…さよなら…」


 

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2009年10月28日:デザイン改修