長編恋愛小説>Love's Form〜愛の形〜『虚像』>第02話「気になる周りの様子」

気になる周りの様子



「やぁ、ごめん。待った?」

  馨は軽く手を上げながら、小走りに歩の方へ駆け寄った。

  歩は微笑むと、手を振った。周りは、俺達をどう思っているのだろう? 馨はそんなことを考えながら、走っていた。ふと、すれ違った女性徒達の会話が耳に入った。

「何に手を振ってるんだろう。あの人…」

  馨には、理解しきれない言葉だった。馨は立ち止まると、女性徒達を振りかえった。女性徒達は、そそくさと小走りに逃げて行った。

* * *

「…どうか、したの?」

  歩の心配の言葉も、馨には届かない。届いても、生返事しか出来ないだろう。馨はさっきの言葉に、妙な感じがして、それが拭えないでいた。

『誰に、手を振ってるんだろう。あの人…』

  唯、答えは一つ。歩に手を振っていた。彼女達が見えなかっただけだ。安易に想像はつく。自分でもその答えで納得しようとしているが、飲み込めないでいる。今日に限って、不安な気持ちが消えない。何故だろう。

「私に何か、できること、ない?」

  歩の言葉が、馨にはとてもありがたかった。一人で抱えるには重すぎる悩み。だれかと分かち合いたかった。

「…うん、頼む。俺にはちょっと、難しすぎて…」

  そして馨は、歩にさっきのことを伝えた。

「それで、俺、いつもない、不安を感じちゃって…。唯、歩ちゃんが見えなかっただけだって、言い聞かせてるんだけど、それじゃあ、納得できなくて…」

  歩の顔をそっと伺うと、何かに怯えている表情だった。

「…馨くんは、言ってくれたよね…」

「?」

「死んでしまった人でも、愛してれば逢いたいって…」

  いきなり関係のない話を振られて、戸惑いながらも「…うん」といった。歩は続ける。

「だったら、大丈夫だよ。それだけ、人を想う気持ちがあれば、どんなことにだって、負けないよ」

  どうしてそういうふうに繋がっていくのかがわからないが、歩にそう言われると、心の中にあった不安が消えていくようだった。馨は感謝した。

「…ありがとう。歩ちゃんに言われると、なんか、大丈夫になった」

「そう。良かった」

  歩は優しく微笑んでいた。馨はその温かさに包まれて、自然と笑顔になっていた。その時…。

「?!」

  馨は、自分の目を疑った。なんと、目の前から一瞬、歩がいなくなったのだ。しかし、今は居る。単なる、見間違いだろうか?

「? どうしたの?」

  歩はきょとんとした顔で聞いた。馨ははっとして、答えた。

「い、いや…。なんでもないよ」

「…そう?」

  歩は怪訝な顔をして頷いた。

* * *

「ク、クラス?」

「そう、歩ちゃんのクラス、何処かな?」

  さっきの暗い会話にピリオドを打つため、馨は当たりさわりのない会話をふった。しかし、歩の表情は、心なしか暗くなっている。

「…どうしたの?」

  馨は聞く。歩は俯いてしぶしぶいう。

「…えっと、1−…Dです…」

「?」

  馨は何故、彼女がしぶっているのかわからなかったが、一応礼をいって、書き止めた。歩は青い表情で馨を見ていた。

「どうか、したの?」

  歩は泣きそうな表情で馨を見つめていった。

「馨くんは、優しいから…」

「えっ?」

「私、多分待っていられるよ…」

「?」

  歩の表情を見ていると、また、あの現象が起きた。そう歩が消えたのだ。

「歩ちゃん?」

  しかし、姿は見えず、歩の声だけが耳に入ってくる。

「今日がね最後かもしれないから…」

「えっ?」

「逢いたいよ…」

「歩ちゃん?」

  しかし、それっきり、歩の声さえも、聞こえなくなってしまった。馨に戦慄が走った。歩みは、確かに馨の目の前から消えた。と、いうことは…。

「ゆ、幽霊…?」

  馨はぞっとする。しかし、馨はいつになく、冷静になれた。

  歩は多分、何かこの世に未練があって、ここに来て、馨と話していたのだろう。馨はそう思い立つと、立ちあがった。

* * *

  放課後が訪れた。馨はしっかりとした足取りで、職員室へと向かった。彼の担任の、桜井瞳のもとへと向かっていた。

「桜井先生…」

「えっ? …なんだ、吉田くんじゃない。どうかしたの? そんな怖い顔して…」

「あの、この学校の生徒さんで、至急、連絡を取りたい人がいるんですが、教えてもらえませんか?」

  瞳は難しそうな顔をして、言った。

「ちょっと、教頭先生に相談してみないと…」

「お願いします」

「………」

「…」

「…わかった」

  ふぅ、と溜息をついた瞳はいった。

「人嫌いな吉田くんが、どうしてもっていうことなら…。教頭や、先生達にはナイショね」

  馨は安堵の表情をしていると、瞳が聞いてきた。

「…で、その子の名前とか、教えて」

「はい、多分、1−Dの仲里 歩さんです」

  瞳は微笑み、「好きな人?」と茶化してきた。馨は何故か赤くなり、それを否定した。瞳は悪戯に笑うと、「生徒立ち入り禁止」と書かれた資料室に入っていた。

  待つ事数分。瞳がゆっくり出てきた。

「有ったわよ」

  瞳は詳細を記したメモをひらつかせ、馨は喜んでそれを受け取った。

「…その娘、今はそこの病院に居るらしいわ。これ、私が聞いてあげたんだからね」

「ありがとうございます」

「でも、どうしてその子の事、知ってるの?」

「え?」

  馨は聞き返した。

「だってその娘、入院してるでしょ? 一体何処で会ったの?」

  馨はハッとした。

  そうか、そうだったんだ…。

  馨は「先生、すみません。ここに、送ってくださいっ!!」と言って、瞳をひっぱって職員室を抜け出した。

  教師Aがぽつんと言った。

「…何だ? 魔女の○件か?」

* * *

「まったく、強引なんだから…」

  結局送ることになった瞳は、運転しながら、隣りに座っている馨にいった。馨は恐縮しながら吐いた。

「すみません…。先生以外には、いえそうもないことなので…」

「ふふ…。それにしても、ずいぶん、変わったわね」

「えっ?」

「前は、こんなに話してなかった。今日はずいぶん、お喋りね」

  クスクスと笑いながら、瞳は続ける。

「そんなに馨くんを変えちゃうなんで…。どんな素敵な娘なの?」

「先生は、相変わらず意地悪ですね…」

  瞳は前を向いたまま、怪訝な表情を浮かべていった。

「あら…。それはお言葉ね」

「…先生は、いつも俺の分からない所で、当てます」

「ふふふ…。そういうこと…」

  ―――楽しげ会話も、病院に着くことで、静まった。

「…先生、それじゃあ、行ってきます」

「ええ…。待ってるわ…」

  2人は、最後の別れのような、悲しげな表情が浮かんでいた。


 

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2009年10月28日:デザイン改修