長編恋愛小説>鏡の中の恋人>第04話「君が居るから…」

君が居るから…


「…ねぇ、誠。聞いてるんでしょ?」

 誠は黙っていた。真琴はそれでも続けた。

「私のこと、嫌いになったと思うけど、もし、許してくれるんなら…」

 誠は真琴を見上げた。真琴の目には、大きな水の塊が浮かんでいた。誠は胸が苦しくなった。苦しくて、切なくて…。もしかしたらこのまま、自分が潰れて消えてしまうように…。

 誠は耐えきれず、真琴の前に姿を現した。真琴は頬に流れる涙を拭いながら、次の言葉を捜していた。誠は目を潤ませて言った。

「俺、大丈夫だから! お前を嫌いになんて、ならないからっ!!」

 誠は今まで胸を縛っていた呪縛のもとを吐き出した。真琴は驚いた表情して、誠を見つめた。誠は続けた。

「真琴とは住む世界が違うけど、そんな事はどうでもいいっ!! 真琴を見つめられたら、それでいいっ!」

 真琴も言った。

「私も、私もそれで良いっ!! 誠を見つめられたら、それでいいっ!!」

 真琴は鏡を抱きしめた。

「誠、冷たいよ…。あなたの体温、低いんだね…」

「お前は、暖かい…」

 真琴は笑った。

「キス、しよ…」

 真琴は素直に言った。

「俺の口、冷たいゼ…」

「それでいいの…。私の体温を、分けてあげたい…」

 2人は目を閉じて、口付けを交した。鏡越しのキスは、切ないくらい冷たかった。もちろん、お互いの唇は触れ合っていない。それでも満足だった。映像として、目を通れば…。

「すごく、嬉しい…」

「俺もさ…」


* * *


 真琴は街へ繰り出した。雑貨屋にいって、手鏡を買うためだ。もちろん、用途は誠とずっと一緒にいるためだ。完全にのろけている2人だった。

「うぅ〜ん…。コレ…」

 といって、真琴が手に取ったのは、真っ赤なプラスティックで、裏側にうさぎのマークが付いている、可愛らしい手鏡だった。真琴はニコニコ微笑みながら「コレにしよ♪」と独り言を言って、レジまで運んだ。


* * *


「デート行かなくて良かったのか…?」

 誠は向こう側に居る真琴に聞いた。ドレッサーの前で笑顔を絶やさない真琴は言った。

「いいの。あなたの側に居れれば…」

 そして、2人はもう一度キスをし、眠って行った。

 ―――その頃、デートをすっぽかされた俊和は自分の部屋で、フォトスタンドの中の真琴を見つめながら、嘆いていた。

「真琴、なんで…」

 俊和の表情は、暗く曇っていた。そして、嫉妬の念も漂わせて…。

 ―――次の日。

 真琴はちゃんと起きていた。今度は誠の力を借りず、さらに目覚ましのお世話にもなっていない。

 愛は女を変えるというのは、ここで証明された。真琴は着替え終わるとドレッサーに向かった。…もとい、誠に向かった。

「誠、朝だよ…」

「…zzz」

「…もう」

 真琴は溜息をついた後、くすりと笑うと部屋を出て行った。

 真琴は階段を降りながら、誠のことを考えていた。

『誠の前では、100%の自分でいたい。いつも最高の自分を見ててもらいたいっ!!』


* * *


 朝の通学途中、真琴は気にしていることがあった。

 昨日、俊和はどうしただろう…? 誠の前では大丈夫っていったけど、やっぱり、ちょっと心配だな…。

 自分の罪に気が付き、後悔する真琴。丁度その時、一週間前の、あのわき道の前に来ていた。真琴は何故か、嫌な予感がした。

「真琴…」

 予感は当たってしまった。

「俊和…」

「ちょっと、来いよ…」

 真琴は俊和の雰囲気に押され、無言で頷き、俊和の後についていった。


* * *


「…昨日、デートだったろ?」

「うん…」

「何で、来なかったんだ…?」

「………」

「黙ってちゃ分からないだろっ?!」

「…ごめん」

「ごめん? ごめんね、はいそうですかで済むことじゃないだろっ?! …何してたんだよ」

「………」

「言えないようなことなのか?」

 真琴は頷く。

「それで俺が許すはずないだろっ!!」

 真琴は震えながら、俊和に反抗した。

「…別に、付き合ってもいない人に、私のこと、干渉されたくないっ! もう、あなたとは、何でもないんだから…」

 吐き捨てるように訴える真琴。

「何でも、あるよっ!! 俺、真琴のこと、好きだっ!」

「そんな都合の良いことばっかり言わないでっ!!」

「しょうがないだろっ! 好きで好きで、堪らないんだからっ!!」

「今頃言ったって、遅いのよっ! …確かに、あなたと出逢った時は、好きだったっ! でも、もうそれは昔のことよ? あの時から、何年経ったかわかる?!」

「………」

 今度は俊和が黙り込んだ。

「いつだって、あなたはそうっ! 都合の良いときだけいつもそうやってっ…! 私、もう行くから…。さよなら」

「待てよっ!!」

 俊和は大声で引き止めた。真琴は「もう話すことはないわ」というために、振り向いた。しかし…。

「もう話すことは…っ!!」

「………」

 俊和は、強引に真琴の唇を奪った。真琴は嫌悪の念にかられ、必死に離れようとした。しかし、俊和の力、男の力にはかなうはずがない。真琴は必死に誠を呼んだ。

『誠…っ!! 助けてよっ…!!』

「やめろっ!!」

 何処からともなく響いた声に、俊和は慌てて周りを見まわす。

「誰だっ?!」

「真琴は俺の女だ。手ぇ出すと、痛い目に合うぞ!」

「誰だよ、こっちに来いよっ!」

「もう居るさ。…お前の目の前にな」

 その時、真琴のバッグが一人でに開き、中から手鏡が浮かび出てきた。あまりの出来事に、俊和は驚愕の表情を浮かべた。

「何だっ!! 何なんだ?!」

「…和輝誠。真琴の彼氏だよ」

 そう誠が言い終わると、その手鏡からもの凄い光が射した。あまりの眩しさに、俊和は強く、目を瞑つむる。それを見計らったように、誠が叫んだ。

「真琴、今だっ!!」

 その叫びを聞き、真琴は俊和の急所に蹴りを入れた。何故、急所を蹴ったか訳はしらないが、女性の身の危険を守ろうとする本能だろう。

「ぐ、○×△…」

 男にしか分からない激痛に、俊和は悲痛なうめき声を上げて倒れた。これをチャンスに、真琴は浮かんだままの手鏡を素早く掴み、風のような早さでその場を立ち去った。

「真琴、大丈夫だったか…?」

 誠は優しい声をかけた。真琴は息を切らせながら「うん、大丈夫…」と答えた。しかし真琴は、何故か嫌な予感がして、それを振り払えなかった。


* * *


 あれは、一時の時間稼ぎにしかならなかった。今日のこの、6校時が終われば、多分俊和はあそこで待伏せしているだろう。そのことを考えると、恐怖と憎悪にかられた。ふと、あの時のことを思い出す。

『もう話すことは…っ!!』

『………』

 嫌なことを思い出し、それを振り払うように頭を左右に振った。

 そっと自分の唇に指を当てる。初めて触れた、人の唇…。あれが本当の、リアルなファーストキス…。確かに、誠と前にキスをしてはいたが、生身の人間とは初めてだった。奪われたものは、真琴にとって大きすぎた。

『ごめんね、誠…。守れなかったよ…』

 そう思うと、自然に涙が込み上げてきた。慌ててハンカチを目に当てる。誰にも気付かれなくって、良かった。真琴はそう考えていた。


* * *


 時はどんなに頑張っても、やはり流れ進み、やがて放課後を迎えた。重い気がより一層重くなった。気分の問題ではあるが、精神的なショックは非常に大きかったようだ。

 ここに居ても、何にもならない。

 真琴はそう言い聞かせて、帰路についた。その時、誠が話しかけてきた。

「真琴、大丈夫だ。また襲われても、俺が居る。必ず守ってみせる。俺を信じろ」

 誠に勇気付けられ、真琴は勇気と笑顔を取り戻した。

「うん、わかった。…ありがとう、誠」

 誠は少し、照れながら笑った。


* * *


「いよいよだな、真琴。心の準備は良いか?」

 誠は冷静な顔で、真琴に尋ねた。真琴はしっかりとした顔で、力強く頷いた。誠は少し、砕けた笑顔を作ると「よし、行こう」と促した。真琴もすぐに、同意した。

 一歩一歩確めるように、それでいて、足取りはどうどうとしていた。

 さて、問題の横道に着いた。誠はごくりと唾を飲んだ。真琴はそれが合図のように、そこを通り抜けようと足早になった。そして、抜けた。
以外なことに、俊和は居なかった。それとも、唯たんに学校が終わる時間を間違えただけだろうか? 何はともあれ、今日はなんともなかった。それで良かったのだ。

 真琴は誠に笑顔で「居なかった!」と伝えた。誠も安心したような表情で頷き「お前の勇気が勝ったんだよ。…さすがに、あそこを蹴られちゃあな」といって、笑った。

 真琴達はそれから、普段通りに家に着き、普段通りの平穏が待っていた。真琴達はいつも通り、他愛もない会話を交わしていた。しかし、笑顔で頷きながら真琴の話を聞いている誠は、心では別のことを考えていた。

『俊和は、かならずもう一度来る…。その時俺は、真琴を守れるのだろうか…?』

「それでねぇ、茜ったら…」

「真琴」

「えっ、何?」

 真琴は話を中断し、誠の話に耳を傾けた。

「俺、絶対、戻ってくるから…」

「…えっ?」

 そう言い残すと、誠は鏡の中で、消えた。その鏡には、真琴の姿さえも映っていなかった。

「誠…?」

 真琴は状況が把握できず、ただ、呆然としていた。


 

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