長編恋愛小説>Lostin' World>第04話「思い出に変わる時(12月24日)」

思い出に変わる時(12月24日)



「よぉ〜し、電気は消した。ガスの元も閉めた! よし、準備OK!」

 達也は珍しく、独り言を言いながら、自分の部屋を見回した。留守電のランプが点灯している。しかし、達也は気付かない。普段、あまりメッセージが入っていないためだろう。

「………」

 達也は腕時計に目をやる。8時半。

「さて、そろそろ行きますか…」

 達也は重い腰を上げた。

 

* * *

 

午前9時30分。いつもの待ち合わせ場所、「例の公園」にいる。二人がはじめて、抱き合った場所だ。

「うぅ〜ん…。遅い…」

 先に来たのは達也だった。奈美曰く『男は待ち合わせの30分前に来ていないといけない』に忠実に従ったのだが…。

「既に30分の遅刻…」

 なのだ。奈美はあれから、どれくらい起きていたのだろうか。

(ったく、何やってんだよ…)

 その時、奈美が慌ててやってきた。

「ごめぇ〜ん…。怒った?」

 達也は冷たい視線を向けた。奈美がたじろぐ。しばらくして、達也は表情を和らげた。

「大丈夫だよ、怒ってない」

 奈美はほっとしてため息をつく。

「はぁ…。もぅ、達也ったら〜!」

 ポカポカと達也をたたく奈美。達也は心のそこから笑った。

 

* * *

 

「何処に行きたい?」

 達也はショピングモールの五番街を歩きながら、次の場所に移ろうとしていた。

「うぅ〜ん…」

 奈美は達也に買って貰ったサングラスを見つめながら歩いていた。必死に思案しているようだ。

「じゃあ…」

「うん?」

「お昼しにいこ!」

 達也はまた、苦笑した。

 時計を見ると、既に11時50分。もう、2時間近く一緒に居るのだ。しかし、そんな時間はかすかにも感じない。何故なら、今を精一杯生きているからだ。そして、最高のパートナーが隣りに居てくれる。不意に、奈美が堪らなく大きな存在に思えた。

「奈美…」

「え――?」

 達也は人ごみの中、奈美を抱きしめていた。

「…たっ、達也?」

 周りの人が、二人を見ている。しかし、達也は奈美を放そうとはしない。奈美もやがて、達也に身を任せた。

「達也…」

「もう…」

 奈美は顔を上げた。

「…えっ?」

「もう、絶対放さないぞ…」

「うん…」

(達也と…キス…)

「ね…」

 奈美のか細い声…。達也は気付かずに、言葉で打ち消す。

「さっ、昼食でも取りにいこうゼ?」

 奈美は苦笑したが「うん」と返事をした。

 

「はぁ〜、満腹満腹♪」

 達也が満足そうに腹を撫でた。奈美はと言うと、殆どを食べ残している。

「あれ、具合でも悪いの?」

 達也が声をかける。奈美は慌てて笑顔で答えた。

「えっ、あっ、うんん、何でもないよ!」

「? そうか…。そろそろ行こうぜ?」

「うん」

 席を立ち上がる。

「あ…」

 不意に、達也が声を上げた。

「どうしたの?」

 奈美が月並みの質問をする。

「あっ、いや…。何か、寒気が…」

 達也は腕を抱え擦った。

「大丈夫? 風邪?」

 達也は首を振る。

「いや、大丈夫さ。ちょっと、ぞくってしただけだから…」

 二人は頷き合った店を出た。

 

* * *

 

 時間が経つのは、意外に早く感じるものでもう既に、夜の11時を回っている。

「あと、一時間かね…」

 ここは、地下シェルター。現在、人類が持てる力を充分に発揮した地下防護施設だ。あと、10分で『例の事実』が発表される。

「しかし、こんなことになろうとは…」

 皆、口々に”信じられない…”と呟いた。

「馬鹿だよ、アンタ達は…」

 不意に、日本の首相が口を開いた。

「…何?」

 各国、一斉にこちらを向いた。

「…どういうことだね? この後に及んで、喧嘩をするつもりか? 最後くらい…」

「その最後に追いやったのは、一体誰だ?」

「………」

 皆、閉口する。

「私達人間だろう?」

 皆、顔を見合わせる。

「最初からこうなることは、目に見えていた。もっと、私達がしっかりしていれば…。息子に、電話をしてくる」

 そう言い残して、日本の首相「浅倉洋介」は走り去った。そう、日本の首相は、達也の父親だった――。

 洋介は携帯の電源を入れ、短縮ダイヤルを押す。表示されるのは、たった一人の息子。達也の名前。

 プルルルルル…。

 

「…おっ」

 達也は携帯のバイブレーションが作動しているのに気付き、表示された人物の名前を確認する。そして、電源を切った…。

「誰から?」

 奈美の質問。達也は正直に「親父からだよ」と答えた。

「ふ〜ん…。出なくって、良かったの?」

「ああ、大丈夫さ」

 その時、街中に臨時ニュースの音楽が流れる。達也も奈美も、何事かと耳を傾ける。

「臨時、ニュースです…」

 ニュースキャスターの女性が、慟哭した後のような顔つきで話し出す。

「今夜、0時、0分0秒に、大質量隕石の落下により、地球は…」

 奈美も達也も、わが耳を疑った。

「嘘、だろ…」

「何で…」

 達也は時計をみる。

「あと…、10分しか残ってないじゃないか!」

「何で?!」

 奈美も目に、涙をためる。

「何でよ…ぉ…」

 達也は今、奈美を抱きしめなければいけない、と強く思い、そうする。奈美は達也の胸で慟哭した。

「…奈美」

「…?」

 達也の胸の中で、少しだけ奈美の顔が上を向く。

「綺麗なものが見える場所に行こうよ」

 奈美は頷いた。


 

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