長編恋愛小説>Lostin' World>第03話「素直で居たい(12月23日)」

素直で居たい(12月23日)



「あのね、達也…」

 二人は次の日、大学内の中庭、芝生の上で弁当を広げていた。勿論、弁当は奈美の手作りだ。

「何?」

 二人の関係が「恋人同士」になったにも関わらず、達也はいつも通りだった。奈美は苦笑する。

「…何だよ?」

 達也は怪訝な顔をする。「ごめん…」奈美はそう言って、なおも笑う。

「…幸せって、このことを言うのかな、って思ったから…」

 奈美は息も絶え絶え、そうつぶやいた。達也の表情が崩れ、一気に赤くなる。

「バ、バカ。何いってんだよ」

 奈美は達也をからかう。

「あっ、赤くなった。カワイー♪」

「う、うるせぇよ」

 達也は立ち上がる。

「行くぞ、奈美」

 奈美は慌てて片付けて、達也の後を追った。

 

* * *

 

「中でも、トンボの異常発生が目につきます」

 達也は真面目に講習を受けていた。

「地球の秩序というものが失われ、生物の食物連鎖も崩れました。…昔の言葉を使うと、『下克上』といったところでしょうか? 弱いものでも、集団で戦えば、その力をあらわすことが出来る。それを学んだのです」

「…達也…」

 不意に、隣りに居た奈美が声をかけてきた。達也は小さく返事を返す。

「…何だ?」

「あのさ、これ読んで」

 渡されたのは、小さく折りたたんだ手紙だった。今の時代でも、授業中の用事の伝達は、手紙だった。達也は面倒くさそうに開き、文字列に目を通した。

『Dear→達也

 いよいよ明日だね、クリスマス・イヴ! 楽しみだなぁ〜…。達也は明日、予定ある? ないよねぇ〜!! じゃあ、明日はデートで決まり! いいよね? 至急、回答を要す!!→YES or YES』

(Noは無し、か…)

 達也は苦笑する。その達也の様子を見て、奈美は笑みをこぼす。

(じゃあ、YES、っと…)

 達也はシャープペンシルで、左の「YES」に丸をつけ、奈美に渡す。

「サンキュー♪」

「どういたしまして…」

 

* * *

 

「本当に、もうどうにもなりそうにないな…」

 巨大モニターを見つめながら、各国のお偉い方が頷きあっている。

「さて…。私達は、どうしましょうか?」

 とある国の首相が全員に尋ねる。

「…償いましょう」

 皆、注目する。

「この命を神が欲して居るのなら、そうするよりほかないでしょう」

「幸い、あと48時間はある…」

「間に合うかね…?」

 一人の問いかけに、誰一人として頷かなかった。その可能性は…、モニターに映っている巨大な隕石を見れば、一目瞭然だからだ。

「まるで、昔の映画のような情景だな…」

 

* * *

 

「送ってくれて、ありがと。嬉しかったよ…」

「恋人同士なんだし、当たり前だろ?」

 達也は当たり前のように言う。奈美は微笑む。

「…そう、だよね…。あっ、明日、楽しみにしてるから…」

奈美はそういうと、部屋へと戻って行った。

達也はいつも通り、奈美の部屋に明かりが点くのを見守ってから帰路についた。

(しかし…)

達也は歩きながら考え事をしていた。

(気温が低いな…)

いつもこの時間なら、低くても26度はあるはずだ。

(ざっと、20度ってとこか…? 低すぎるな…)

何故だろう…?

達也は勿論、一般市民には知らされていない情報。大質量隕石の接近。衛星がその姿を捉えてもいいはずなのに、どの装置も感知とない。一体何故だろう。ただ一つ、国が運営する衛星にだけかかった。

都合の良い話に聞こえるが、勿論事実だ。

 

そして、達也が寝入った頃…。

空に一つの光が生まれた。隕石なのだが、誰もそうは思わない。

ただの、飛行機だろう――。

だれもがそう信じて疑わなかった。

あの光が明後日、この世界を包み込み、真っ黒に焼き尽くすことを。

 

* * *

 

(達也、もう寝ちゃったかな〜?)

 奈美は夜中の1時に、受話器を握り締めながら、達也の家へダイヤルした。

(…寝ちゃったみたい、だね…)

 やがて、肯定するように、留守番電話サービスへ接続される。奈美は精一杯、明るい声でメッセージを録音する。

「達也っ、もう寝ちゃったみたいだね! 現在夜の1時です♪ もう、今日がデートの日なんだね! 楽しみだなぁ…」

 奈美は一呼吸置いて続ける。

「あの、私からのお願い! もし、明日私が『好き』っていったら……。キス、してください! じゃあ、今日の9時にもよろしくねっ♪」

 奈美は受話器を置いた。

(明日の夜は、素敵な時になりそう……)

 奈美の夢は、いつ、叶うのだろうか……。


 

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