長編恋愛小説>Lostin' World>第02話「愛しさ(12月22日)」

愛しさ(12月22日)



 12月の、炎天下の空の下。達也は初めて授業をサボった。その理由は、昨日の帰り道のさかのぼる。

* * *

『…ねぇ、達也』

 奈美は少し、遠慮がちに話し出す。

『…何だよ』

 達也は素っ気無く答えた。

『アンタ、近頃外に出てないでしょ?』

『勿論だ。動くのはあまり好きじゃない』

『とかなんとか言って、小中高の体育祭とかは、必ず一位取ってたじゃない』

 達也が鼻で笑う。

『…相手が遅かっただけだよ』

 奈美が否定する。

『そんなこと言って…。謙遜することないじゃない?』

 奈美は続ける。

『…素敵だよ』

『ん? 何かいったか?』

 達也は聞き返す。奈美は微笑み「ううん、何でもなぁい♪」と言った。

(…達也の鈍感)

『ねぇ、達也。それでねっ…』

 達也は黙って聞く体制に入った。

『明日、朝からデートしよっ』

『ああ…。あぁ?』

 奈美は嬉しそうに微笑み『やったァ♪』と叫ぶ。達也が急いで取り消そうとしても、運悪く(達也側で)、奈美のマンションの前まで来ていた。

『あっ、着いたよ、ありがとう!! じゃあ、明日十時に、あの公園の前でねっ!!』

 そこまで早口で伝えると、達也が断る隙もなく、中へ戻っていった。

『ちっ…』

 達也は舌打ちをしたが、少し微笑むと足早に自室へと戻って行った。

 

* * *

 

 まず、マンションの入り口でパスワードを入力(8桁)。閉ざされていた電子ドアが音を立てて開く。人一人が入るのに、わずか五秒しかあいていない。しかも、人一人がとおるとその時点でドアは厳重にロックされ、外からの進入は不可能に近いものになった。

 達也はエレベーターを使って部屋へ戻る。3階。そのフロアが達也の部屋がある場所だった。

 2086年に開発された「次元圧縮システム」というものを使っているので、外見は普通のマンションだが、中身は太平洋が数個入るくらい広い。一部屋は大体、個人の好きなように設定できる。例えば、部屋は何個でとか、各部屋の大きさも変換できる。便利な世の中になった。

 ただし、電気という媒体があるからこそ、維持できる状態だ。一度停電が起これば、人々は圧倒されるくらいの空間でただ一人となってしまう。辺りは闇が襲う。その感覚は、一つの世界でたった一人、取り残されたような感じがするのだ。体験しなければ、その恐ろしさは分からない。

 厳重にロックされているドアを開けると、達也は素早く部屋に入る。それと並行し、扉も閉まる。いつものように明かりをつけ、改めて自分の部屋を見渡す。

 まず、入ってすぐの場所に収納スペースがある。制服や普段着が端に必要な分だけある。その近くに下着。
少し入ると、大きな部屋がある。そこを普段の生活の場としている。青のカーペットが敷かれており、その上にテーブル。足が黒く、ガラスの板で形成されたオーソドックスなタイプだ。


 その前方には、テレビがある。今も昔も、テレビというメディアが衰えることはなかった。


 その代わり、急速に普及したものがある。多くの人の予想通り、パーソナル・コンピューターだ。インターネットも発達し、世界が完璧につながったことで、言葉の壁がなくなった。

 やはり、標準語として英語が使用されるようになった。小学一年から必修科目と認められ、二年までには英語をマスターしなければならない。

 それに伴い、義務教育の粋が広がり、高校まではそうなった。しかし、教科書などはやはり、昔のように購入しなければならない。国の財政が厳しいのがその大きな理由だ。

 …話がずれてしまった。達也は今…。

「明日、何を着ていくかな?」

 達也は行く気、充分だった。

 

* * *

 

「ごめんごめん! 遅れちゃったっ」

 達也は声がするほうに向くと、その人物を眺めた。

「………」

 達也の訴えるようなまなざし。奈美は笑顔でそれを包みこんだ。

「さぁ、行こうよ」

「…まぁ、いいけどな」

 達也は苦笑して歩き出した。奈美も並んで歩く。…いきなり、腕を絡める奈美。

「おい、何だよ?」

 達也は驚きながら問う。奈美の髪の香りが鼻腔をかすめる。

「いいじゃない、別に」

 奈美はニコニコして言う。達也はそれに負けて、黙ってしまう。

「さぁさぁ、何処に行こっか?」

 奈美は口ではそういいながら、そっと洋服店に向かっていた。また、達也は本屋に行きたいと考えていた。

 

* * *

 

「あっ、ねぇねぇ! コレ可愛い!」

「そうね」

「でも、こっちもいいよね?」

「そうね」

「このペンダントも素敵!」

「そうね」

 達也は生返事ばかり返していた。

「達也、次は公園行こうっ」

「そうね」

 やはり、そのままだった。

 達也にして見れば、ただ疲れるだけの行為だった。唯一の助けは、隣りに奈美が居ること。返事はあるザマだが、内心は少し、楽しかった。

 幼なじみ。そう、ただの幼なじみで居るはずたった。けど、その考えは甘かった。

 成長して、気付いた。どんどん、奈美に惹かれていく。無口な自分。そんな自分に、声をかけてくれるのは奈美と、少ない昔からの知人だけだった。新しい友達なんて、出来ることはない。小数の知人だった、小さい頃からの友人ばかりだ。

 そんな環境の中、達也の心はやはり、奈美に向く。

 こんなにつまらない自分に必要なのは、奈美のような、社交性のある人だ――。

「ねぇねぇ達也っ。アイスクリームがほしい!」

 達也は「はいはい」と苦笑しながら答え、財布から一ドル二十セントを取りだし向かう。後ろから「チョコレートね!」というリクエストが飛んでくる。達也は「わかってる」と答えた。

(達也、ありがとう)

 奈美はベンチに座り、心の中で語りかける。

「ほら、チョコレートだ」

 達也が戻ってくる。奈美は笑顔で受け取った。

「太るぞ」

「達也がそうしたんだから、責任とってもらもん」

「…そうか」

 達也が言う。

「とって、くれる…?」

「とっても、いいかもしれない」

 奈美はアイスクリームを落とした。

 小鳥が舞い上がる。

「本当?」

 奈美は少し、声が震えていた。

「ああ、本当だ」

 その瞬間、奈美が達也に抱きついた。

「おい、奈美…っ」

 驚いて、達也が声を上げる。手のやり場に困ったが、そっと奈美の肩に置いた。奈美は涙をポロポロこぼしている。達也は微笑んで強く抱きしめた。

 ―――暑い昼下がりの、虹が良く見える午後のことだった。

 

* * *

 

 その頃、中国の某所で、極秘に国際会議が開かれていた。

「今回の事態、普通とは思えません」

「そう。あの夏から、こんなことは初めてだ」

「いくら我々の技術が進歩したって、あの恐怖だけは打ち消せない。無茶だ!」

 各国の大統領、総理大臣が次々に口を開く。

「そう。あの夏から、全てが始まったのだ」

「………」

 皆、その声の方を見る。

「もう、この世界は終わりだよ…」

「………」

 誰も、異議を唱えない。

「最後の時だけでも、楽しもうではないか」

 やはり、異議はなかった―――。


 

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2009年10月28日:デザイン改修