Christmas Time>2001-2002「Unbalance=二人の好きな人=」>第04話「悲恋/前編」

悲恋/前編



 明くる日の朝。佳代はパンをかじりながらふとカレンダーに目をやった。と、クリスマスまでもう幾日もないことに気付く。それは同時に2学期の終わりが近いことも示している。

 佳代は視線を泳がせて、隣で同じようにパンを頬張る小夜を見た。明らかに元気がない。

 無理もない…。

 佳代は目玉焼きを一口分だけ口に運びながら、小夜の心を察していた。

 彼女の心を思うと、稲妻のように激しい疼きが胸を撃つ。この世の中にこれ以上の衝撃があるのだろうかと、佳代はこの2日間良く思案していた。

 しかし、そんな考えを廻らせていると必ず佳代は気付くのだ。姉を哀れに思う反面、心の何処か片隅で胸を撫で下ろしているもう一人の自分が存在していることを。そしてそれに気付くと、決まって佳代は自分を嫌いになる…。

「佳代ちゃん」

 不意に、小夜の声が佳代を現(うつつ)に返した。

「…遅刻しちゃうから、早く行こう?」

 小夜は残りの牛乳を飲み干すと、静かに立ち上がった。

「…あ、うん」

 佳代はまだ食べかけのトーストを置いてそれに応えた。

 

 学校に辿り着くまでの間、二人が交わした言葉は二言、三言と少なかった。

 街路樹も身にまとっていた葉を落としたので、一歩歩く度に乾いた音が旋律を紡ぎ出しているような、そんな気さえしていた。それを聴いていると佳代は突然、寂しさを冬に例えるわけが解ったような気がした。

 

* * *

 

 なんとなく空が澄み渡ってきた、三時間目の休み時間のこと。佳代が友達と談笑を交わしていると、勢い良く教室の前の扉が開かれる。

「佳代ちゃん!」

 と、同時に佳代を呼ぶ声。その声の主を思い浮かべる頃には、その人物によって、廊下にまで連れ出されていた。

「さっ、小夜ちゃん…どうしたの?」

 朝の小夜の様子からの急変ぶりに戸惑いを隠せない佳代。

 それを知ってか知らずか、小夜は自分の考えだけを話し出す。

「あのね、放課後買い物があるの! 付き合って! ホントにお願い!」

 顔の前で手を合わせて懇願する小夜。

「それは構わないけど、何を買うの?」

 と、言うかよの問いかけに、待っていましたとばかりに答える小夜。ヒミツの話なのか、耳元で囁くように…。

『ほらほら、良く考えるともうすぐクリスマスでしょ? だからプレゼント贈ってもう一度ハッキリと答え訊こうと思って…』

 と、小夜。

『しつこいって思われるだろうけど、駄目な時は嫌われちゃった方が、スッキリ諦められるでしょ…?』

 そう言ってしまうと、顔を離して小夜は佳代に微笑みかけた。その表情には淀みない決意が滲み出ていた。

「…解った」

 佳代は頷いた。途端に、始業を告げる鐘が鳴る。

「じゃあ、また放課後に迎えに来るね?」

 それだけ言い残して、小夜は自分の教室へと駆け出していった。佳代はその背中を見守る内に、いたたまれなくなって、すばやく自分の席へと引き返した。

 佳代の席は、冬の所為だろうか。彼女にとってそれは冷たく感じた。

 

 そして、放課後。

 二人は並んで駅前の商店街へと向かっていた。

 学校帰りの寄り道をしている学生がやはり多く見受けられる。色とりどりの制服が鬩(せめ)ぎあっている。

 佳代は自分の学校の制服は、其処まで好きではなかった。有り触れたデザイン。無表情な色彩。それは良く姉である小夜と愚痴りあった話題だった。

 そう言えば…、と佳代は胸の中で呟く。

『最近小夜ちゃんとお話、あんまりしてないなぁ…』

 事実、佳代はあれから―――、小夜の恋と、自分の恋が同じであることを知った時から、何となく会話をする機会を持つことを避けている。

 意識的なものではなかった。ただ、無意識に心が小夜と触れ合うことを拒否する。

 もし彼女が、自分の気持ちに気付いたら―――。

 それ考えると、怖くて近づけなかった。

「佳代ちゃん」

 不意に話し掛けた小夜の声が、佳代を現実に引き戻す。

「…あ、何?」

「…なんか佳代ちゃん、今日変。何かあったの? 話し掛けてもぼーっとしてること多いし…」

 と、心配そうな眼差しを向ける小夜。

「大丈夫だよ」

 そんな小夜に、佳代は精一杯の笑顔を向ける。

「…そっか」

 頷いて、微笑み返す小夜。

「ところで佳代ちゃん。佳代ちゃんだったら何をプレゼントする?」

「私、だったら…?」

 当惑する佳代。

「うん。一応、参考までに」

 そう言って、笑顔を見せる小夜。無垢な、微笑み。

 …私だったら。

 気が付くと、そう胸の中で反芻(はんすう)していた。まるで今からプレゼントを買うのが自分であるかのように。

 そうしているうちに、漠然と一つのものが思い浮かんだ。

「…小さいもの」

「小さいもの?」

 小夜はすぐに聞き返した。

「うん。…何となくだけど、小さいものの方が渡し易そうだったから」

 と、佳代が弁明する。

「…そっかぁ。佳代ちゃん、すごいねー! 私、思いつかなかったよー」

と、感心しつつ頷く小夜。そうしながらプレゼントするものを思案しているのが、手に取るように解る。何故なら、彼女の横顔が余りに幸せそうだったから。

 小夜の、滝本 修司を想い、心を募らせては微笑む。そんな姿を見る度に、佳代はだんだんと卑屈な気持ちになっていく。しかし、また此処で感情を表情に表したなら、小夜が何かを感じ取ってしまうかもしれない。

 だから、渦巻く負の感情をしまい込んだ。

 胸の中の、ずっとずっと、奥底に。


 

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2009年10月28日:デザイン改修