Christmas Time>2001-2002「Unbalance=二人の好きな人=」>第02話「葛藤」

葛藤



 人が沢山居る。けど、私たちには関係ないもんね。私が居て、修司が居て、それだけで何もいらない。

 そのまま二人で歩いていると、次第に人気が少なくなってきた。町を彩っていた色や、町そのものも闇に染まっていく…。それでも修司と腕を組みながら歩く。いよいよその場所は真っ暗になる。

 私達の姿だけが、闇の中に浮いていた。

 不意に立ち止まって向き合うと、静かに目を閉じて唇を止め合った。

 幸せなハズだった。けれど、違和感を感じるの。唇が触れ合っているという感触がない。そっと目を開けると、奇妙な風景が広がった。

 目の前にあるハズの、滝本くんの顔がなく、遠くの場所で私と滝本くんがキスをしている。

 遠くに居る私達が唇を離すと、滝本くんが闇に飲み込まれて行った。そして独り残った遠くの私は、私を見ている。妖艶な笑みを口元に浮かべると、ゆっくりと告げた。

『佳代ちゃん…』

 …私は愕然とした。あれは私じゃない。滝本くんとキスしていたのは、あれは…。

『佳代ちゃんの好きな人ってさー…。私の修司?』

 

「!」

 そうして気が付くと、佳代はベッドの中に居た。背中に汗が流れる感触がするまで佳代は何がどうなっているのか解らなかった。

「…夢…」

 佳代は漸く状況を飲み込むと、張り詰めていた緊張が一気に解けてベッドに沈んで行った。

 柔らかなベッドの感触が次第に佳代の平静を取り戻してくれた。

 佳代は手を伸ばして目覚ましを取ると時刻を確かめた。

 五時半。寝汗がひどいので、佳代はそのまま起き上がるとシャワーを浴びに浴室に向かった。

 

* * *

 

「佳代ちゃん今日早起きだったねー!」

 いつものように二人で登校する佳代と小夜。

 しかし、二人の抱く感情を二つとも解している佳代にとって今はただ苦痛な時間でしかなかった。

「うん…。なんか目が覚めちゃって」

 交差点を右折する。

「そっかー。私低血だから起きれないよー」

 そう言ってまた欠伸をする小夜。

「そういえば佳代ちゃんさー」

「うん?」

「今日の放課後って、残れる?」

 と言う小夜の一言に疑問符を浮かべる佳代。

「え、どうして…?」

「うん、ちょっとねー。用事があるんだ。…今日クラブすぐ終わると思うの。ほら、2学期最後のクラブだし」

 その時校門を潜り抜け、校庭をまっすぐに歩いていく。

 佳代は頷いて応えた。

「…解った。宿題でもして待ってるよ」

「ありがと!」

 こうして二人は校舎に辿り着き、互いの下駄箱に行って、そのまま教室に向かった。

 

* * *

 

 そうして放課後。先程小夜がクラスにやってきて「クラブに行ってくるね」と告げて行った。それに応えた佳代は今、席に座り直した。

 そして今日出た宿題を広げて早速解答を始めた。

 

 それから一時間程が経過しただろうか。佳代が数学の宿題を解き進めていると、彼女の不得意な問題にでくわした。

「………」

 どの位悩んだだろうか。どうしても解らず諦めて時計を見上げた。…多分、未だ先生は残っている時間。このまま悩んでいても解決しないと確信した佳代は職員室に向かおうと席を立った。

「あれ、塚原じゃん? 何してんの?」

 その時だった。教室の前の扉が開いて、修司が姿を見せたのは。

「…あ、うん。宿題してたの…」

 何とか平静を保って応えた佳代。しかし、胸の鼓動だけは、コントロール出来ない。彼の声で発音される一つ一つの言葉が好きだと感じてしまう。それが何気ない、また意味のない言葉であったとしても。

「ふーん。何処か行くの?」

 修司は然程(さほど)気に留めないで自分の席に戻った。今、二人は隣同士で並んでいる。

「あ…、数学の問題が解けなくて、先生の所に行こうって思って…」

「今日貰ったやつ?」

 修司は鞄に必要なものだけを仕舞いながら佳代に尋ねた。

「え? …うん」

 と、佳代が応えるや否や、修司が佳代のプリントを取った。

「どの問題?」

「え?」

 修司が佳代の方を見向く。

「数学なら結構解るから、教えてやれるけど、いかが?」

 口元に笑みを浮かべる修司。その優しい笑顔につられて、佳代も微笑んだ。

「…お願いします」

 そしてまた、二人は微笑み合った。

 

* * *

 

「あ、佳代ちゃーん、ただいま!」

 修司が帰ってから30分程時間が過ぎた頃、小夜がクラブから戻ってきた。

「…おかえりなさい」

 佳代は小夜に微笑みかけて言う。

「うん。ごめんねー、待たせちゃって!」

 そういう小夜に、首を横に振って言う佳代。

「気にしないで」

「…ありがとう!」

 二人は笑った。

「…それで、用事って何?」

 それから少し雑談を交えた後、佳代が話を切り出した。途端に口数が減る小夜。

「え? うん…」

「お姉ちゃん? どうしたの?」

 小夜は俯くと、少しして顔を上げた。

「…あのさ、滝本くんの机、何処かな?」

「…え? どうして?」

 佳代の内心は戦慄した。顔にこそその恐怖を浮かばせなかったが…。

「うん、書いてきたんだ…。手紙…」

 そう言いながら、鞄から手紙を出す小夜。佳代はその綺麗な便箋を見つめて絶句した。

「…思い立ったら即実行ってやつ?」

 そう、恥ずかしそうに笑う姉を見て、佳代は正直に可愛いと思ってしまった。

 自分と同じ顔なのに、自分では全く敵わない姉の容貌。明るくて、人付き合いも良くて…。自分をふと振り返ってみる。姉程明るくはないし、まして人付き合いが上手いわけではない。…何一つ姉には勝っていない…。

「…佳代ちゃん、どうしたの?」

 ハッ、と気が付く佳代。目の前では小夜が心配そうに佳代の顔を覗き込んでいる。

「なんでもないよ! …それより、滝本くんの席は…其処だよ」

 隣を指差す。

「ホント? うわぁ〜、良いなぁ、佳代ちゃぁん」

 と言って、佳代に抱きついていく小夜。

「明日一日クラス替わって〜?」

 佳代は苦笑する。

「無理だよー…。それより小夜ちゃん、早くしないと誰か来ちゃうよ?」

「そうだった!」

 小夜はパッと佳代から飛び退いて、辺りに人が居ないか確認して、そっと手紙を机の中に差し入れた。

「はぁぁ〜、ピンチだったよー。心臓バクバク言ってたぁ…」

 と、ため息混じりに俯く小夜。

「頑張ったね」

 佳代は一言、そう告げた。

 しかし心の中では、羨望と嫉妬の念が入り混じっていた。


 

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