Christmas Time>2001-2002「Unbalance=二人の好きな人=」>第01話「二人の好きな人」

二人の好きな人



 塚原 小夜(つかはら さよ)。塚原 佳代(つかはら かよ)。

 二人は、所謂(いわゆる)一卵性双生児だった。

 この世に生れ落ちるのがたった数分ずれただけなのに、誰もが認める程二人の性格は正反対だった。

 姉の小夜は明るくて、人当たりが良い。妹の佳代はというと、控えめで気が弱い。

 顔立ちは良く似ていた。一卵性双生児の宿命だろう。

 そんな二人にも、好きな人が出来た。しかし生まれながらにして持ち合わせた性格が、こんなにもハッキリと明暗を分けるとは、その時の二人は知る由もなかった。

 

* * *

 

 その日最後の時間、佳代のクラスはLHR(ロングホームルーム)だった。

 この時間のテーマだった進学についての話も大方終わり、余ってしまった残りの20分をどうしようか、と皆で考えていたところ、先生が一つの提案をした。

「…じゃあ、そろそろ席替えするか?」

 それを聞いた生徒達の反応には、喜ぶ声も不満げな声も入り混じっていた。

「方法はどうしようか? …くじ引きで良いな」

 生徒達は小さく笑った。この教師はいつも話が自己完結するからだ。

「ほら、誰か適当にくじ作れ。俺は席の絵描いておくから」

 そう言うと、その教師は無責任にも生徒達に背中を向けて、せっせと席の模式図を描き始めた。

 誰がくじを作るのか生徒達が困惑していると、その雰囲気を感じ取ったのか、滝本 修司(たきもと しゅうじ)が無言で立ち上がって教卓の中から雑用紙を取り出すと、一人で手早く作っていった。

 佳代はそんな修司を見て、胸が熱くなるのを感じた。

(手伝おうかな…)

 ―――そう思っては見ても、身体が言うことを聞かない。それに手伝うことで自分の気持ちを悟られてしまったら…。

(振られちゃう…)

 …咄嗟に身が強張った。佳代にとって、それだけはあって欲しくない出来事なのだ。

 振られることが怖くて告白出来ずに居たら、何時の間にか3年の月日が流れていた。その間、佳代は修司の姿を見続けてきた。幸い、一度としてクラスが分かれたことはなかったから。

 どうして修司を好きになったのか。それは、佳代だけの秘密だった。

「おーし、くじも出来たことだし。そろそろ始めよ―や」

 その後、両端の先頭の人がジャンケンをして、佳代の列と反対側の人が勝ち、そちらからくじを引いていくことになった。

 そうしてくじ引きが淡々と進んでいく中で、今度は修司が引く番になった。

 佳代は席の模式図と、修司が引いた場所をしっかりと見ていた。

(5番…。23番なら、滝本くんの隣になれる…)

 位置的に言うと、後ろから2列目の廊下側。修司も満足げだった。

 荷物の整理を始めた修司をこっそりと見つめて、佳代は隣の席になれることを願った。

 

 そして、いよいよ自分の番。

 佳代は残り少ないくじの中から一つ取り出すと、番号を見た。…16番。

 前からの二番目。確かに修司の列の隣ではあったが、修司の隣ではなかった。

(…そう上手くはいかないよね)

 佳代は自分の席に戻ると、荷物の整理を始めた。

「じゃあ移動し終わったら掃除しとけよ。ちょっと職員室に行ってくるわ」

 そう言って、教師は慌しく教室を出て行った。皆新しい席に移動し終えると、掃除を始めた。

 佳代は教室のほうきを受け持っていた。親しい友人と談笑を交えながら掃除を進めていると、修司の隣になった子が佳代に話し掛けてきた。

「佳代ちゃん」

「あ、相田さん。どうしたの?」

「なのね、私今の席じゃ前が見えないんだよね。席、変わってくれないかな?」

 佳代は胸の鼓動が早まるのを感じた。

 神様、ありがとう!

「あ、うん。良いよ」

 と、平静を装って答える佳代。

「ありがとう! 私から先生に言っておくね」

 そう言って、相田 千恵(そうだ ちえ)は自分の掃除場所に向かった。

 佳代は掃除時間が終わるのが、待ち遠しくて堪らなかった。

 

* * *

 

「あれ、塚原?」

 掃除から戻ってきた修司は、隣の人間が代わっているのを見て訝しくおもったのか、早速佳代に話し掛けてきた。

「席、変わったの?」

「…あ、うん。相田さんが前が見えないって言ってたから」

 佳代は間近で聞く修司の声に、胸を躍らせていた。

「ふーん。まぁ、宜しくな」

 そう言って、修司は席に着く。佳代も「…うん」と返事をして同じように席に着いた。

 

* * *

 

 その夜、佳代は上機嫌で宿題を進めていた。

 ご飯も食べたし、お風呂にも入ったし…何より滝本君と隣の席になれた。明日からの学校生活が、楽しみで堪らない…。

 そう一人で物思いに耽っていると、突然ドアをノックする音がした。佳代は慌てて返事をした。

「はい」

 と、言い終える前にドアが開く。

「佳代ちゃーん、此処解んないんだ、教えて!」

 姉の小夜が一枚のプリントを持ってやってきた。

 たまたま同じ教師が教えている教科だったので、宿題も同じ。

「っていうか、写させて」

 と言ってまた笑う姉。佳代の方も苦笑して、先程終わったばかりのプリントを差し出す。

「ありがと」

 小夜はそれを受け取って、其処においてある小さなテーブルの上で、せっせと写し始めた。

「あ、佳代ちゃんさー」

 と、写しながら話す小夜。

「…何?」

 佳代も同じように返事をした。

「今日なんか、良いことあったでしょ? 顔がなんかニヤけてたよ〜」

 佳代はドキッとした。今姉に背を向けているのがせめてもの救いだった。自分は顔に出るタイプだから、勘が鋭い姉にすぐバレでしまう…。

「…そんなことないと思うけど」

 精一杯取り繕って返事をする佳代。

「あはは、怪しいなぁー」

 小夜は楽しそうに言った。幸いそれ以上の詮索はなかった。

 ほんの少しの間が空いてから、小夜がまた、ポツリと呟いた。

「…ねぇ、佳代ちゃん?」

「…ん?」

 問題を解きながら返事をする佳代。

「…好きな人って、居る?」

 佳代は慌てて振り返った。

「どっ、どうして…?」

 動揺している佳代に気付かず、小夜は俯いて話し始めた。

「あのさ…、佳代ちゃん知ってるかな…」

「…何を?」

 小夜は一時黙っていた。そして、決心がついたのか顔を上げて言った。

「滝本くんに、彼女いるのかな?」

 佳代は、暫くその言葉を理解出来ずに佇んでいた。


 

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