Christmas Time>2000「Snow Season」>第03話「Snowy...」

Snowy...



「どうして…」

 優の口を突いて出てしまったのは、彼女を「責める」言葉だった。

「私はね、優ちゃん…」

 そんな優を、慈しむような瞳でみつめる沙雪。

「私は、冬を司る者…。この、冬という季節からは、決して逃げられない。だから、私…」

 そういって、俯く沙雪。

 優も無言を返したが、決して驚きはしなった。そんなこと、薄々と気付いていた。沙雪はただの人間ではないと。しかし、優にとってはそんなことはどうでも良かった。

 ただ、好きになった人が、人でなかっただけだから。

 愛する気持ちに、隔たりがある? だとしたら、それは本物の愛ではない。だから、自分が正しいとは言わない、いえないが、この気持ちだけは、「本物だ」と、言い切っても良いと思いたい。

 例えそれが、傲慢なものだとしても…。

「沙雪ちゃんを、君自身の運命から解き放ってあげることは出来ない。けどね、僕自身が変わることは出来るハズだよ…」

 優はそれだけ言うと、後は黙り込んでしまった。これ以上の言葉が見つからない。

「…できないよ、そんなこと…」

 …不意に、沙雪がそう呟く。

「どうして、沙雪ちゃんは僕のことを、好きじゃないの?」

 優は締め付けるような胸の痛さに堪えながら、必死でそう、言葉を紡いだ。

 そして、沈黙が訪れる。

 雪は、やみかけていた―――。叶う想いも、叶わない想いも、一粒の雪のように儚く溶けてゆく。

「…許して、くれない?」

 沙雪は突然そう、小さく呟いた。

「え?」

「…優ちゃんのこと、大好きだから、このままで居て欲しい。それで、許してもらえない?」

 …優は、言葉を飲み込まずに入られなかった。…泣いていた。沙雪が、泣いていた。

「沙雪ちゃん?」

 優は心配になって声をかけた。

「…聞かないで欲しかった。私が優ちゃんのこと、どう思っているのかを。だって、答えなきゃいけないでしょ? どうすることも出来ないのに、…どんなに優ちゃんのこと好きでも、変えられない運命に従わざるを得ないことを、また確かめることになるから…」

 そういって、今度はポロポロと大粒の涙を流しながら、子供のように泣いた。

「…ごめん、沙雪ちゃん…。僕がもっと気持ちがわかる人間だったら良かったのに…。僕が、沙雪ちゃんの運命さえも溶かしてあげれるくらい、強い人間だったら良かったのに…」

 そういって、優も泣いた。

 二人で泣いた。どうすることも出来ないもどかしさに負けて、二人はただ、深々と降る雪のように、さめざめと泣いた…。

「…優ちゃん、お願い。もう泣くのはイヤ。泣くのイヤだから、このままずっと、私のこと抱きしめていて。抱きしめていられると、この辛さを忘れていられるの」

 そういう沙雪を見つめて、優は抱きしめている腕の力を増した。

「ありがとう…」

 沙雪は微笑んだ。…直後。

「…え?」

 スゥ…、っと、沙雪の体が透けてゆく。それはとまらない。

「沙雪ちゃん?!」

 優はまわしていた腕を解いた。沙雪は立ち上がり、優に告げる。

「私は、冬を司る者。変えられない運命を背負う者…」

 優はただ、無言を守る。

「優ちゃん、私、優ちゃんのこと好き。だから、私なんかを想っていたら、優ちゃんダメになるから、これで…」

 すぅ、っと、息を吸い込む沙雪。

「さよなら、だよ…」

 沙雪がそういうと、雪が激しさを増した。目を開けて居られぬほどに、強く吹く風。

「沙雪ちゃん?! どうしてだよっ!」

 

(ありがとう、大好き、だったよ…)

 

そして、雪はやんだ。そこに沙雪の姿はなかった。

「…どうしてだよ、沙雪ちゃん…」

 優は泣いた。叶えられなかった想いを悔やむのではなく、解き放ってやれなかった自分に悔やんでいる。

 

* * *

 

 春。

 雪解けの季節がまた廻り。

 優はこの場所から動けなかった。

 また来年の冬。変わらぬ笑顔で沙雪が、逢いに着てくれることを心待ちにしながら。

「沙雪ちゃん、僕はやっぱり、冬がキライみたいだ…」

 遠い冬を想い、沙雪を想い。優はこれからも待ち続けるのだろう。

 愛しい人を。

 空には一点の曇りもなく、雪はもう、降っては居なかった。


 

END|
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2009年10月28日:デザイン改修