Christmas Time>2000「Snow Season」>第02話「再会〜Snow Season〜」

再会〜Snow Season〜



 沙雪の儚げな表情を見てからというもの、優は幼心に、何故か彼女のことを気にとめるようになっていた。

 例えば、雨の日以外は毎日沙雪に会っていた。優は、彼女のおかげで冬を好きになれたような気がした。

 それなのに、別れは或る日、突然やってきた。

 

 雪解けが進むにつれて、沙雪の存在を、忘れがちになっていく自分に気付く優。

「…あのね、私…」

 沙雪がとても辛そうな表情をしていたので、優は心配して訊いた。

「どうしたの…? お腹…とか、痛いの?」

 沙雪は俯いたまま、首を横に振る。

「あのね…、もう。…もう会えないの!」

 

 

………――――――会えない?――――――………

 

 その言葉の意味を理解すると、優も俯いて問う。

「…どうして、なの?」

「…また、住んでる町に、帰ることになったの…」

 と、辛そうに声を生み出していく沙雪。優も、別れなければならないことをとても悲しがっている沙雪の心情を察して、自分は強くなければ、と、また幼心に決めていた。

「…また、いつか会えるの?」

 優は、訊いた。と、沙雪は顔を上げる。

「春が過ぎて、夏が終わり、秋を越えて、また、冬が来る頃に、戻ってこれるの」

 詩的な言葉で真実を告げる沙雪。その表現さえ、儚かった。そう、このように考えると、彼女の存在自体、儚いものだったのかも知れない。

「そうなんだ…。結局、一年間は、会えないだね?」

「…うん」

 其処まで話して、二人は黙り込んでしまう。僅かに残る白い雪が、キラリと煌いた。

 

* * *

 

 そうして、二人が別れて春がやってきては通り過ぎ、夏がやってきて、それは終わり、秋が去り行く頃、また、あの季節が来た。

丁度一年前に、この場所で出逢い、別れた彼女。沙雪は、この季節に戻ってくると言った。それを信じて、優は待っていた。

 トントン。

 誰かが肩を叩いた。優は一瞬で笑顔になる。

「…おかえり!!」

 其処にあるのは、あの笑顔。

「ただいま!!」

 

 ―――そうしたことは、毎年続いた。

 冬が来れば、二人は再会したし、…冬が過ぎれば、二人は別離した。

 けど、冬毎の再会は、二人の絆を儚くみせてはいたが、しっかりと強いものにしていっていた。

 

 しかし、初めての出逢いから6年経った、優が小学校6年生の時、二人の間に僅かな、しかしとても大きなヒビが入った。

 その日も優は、沙雪と会う約束をしていた。…が。

「なぁ、優!」

 学校の帰り際、友達に呼び止められた優。

「ん、何?」

 そう答えると、友達が言う。

「あのさ、今日うちでクリスマス前のパーティーやるんだけど、来ないか?」

 優は頭の中が真っ白になった。今まで優は、パーティーに招待されたことなどなかったのだ。嬉しさのあまりに優は沙雪のことを忘れ…。

 

 …パーティーにいってしまった。パーティーの終わる頃になって、優は漸く沙雪のことを思い出した。しかし…。

(…まあ、明日謝れば沙雪ちゃんだって、許してくれるよな)

 

 翌日。

 いつもの場所、見慣れた風景。けれど、足りないものがある。

「…沙雪、ちゃん?」

 優の声は、深々と降り注ぐ雪に、飲み込まれて行くばかり。

 その日以来、沙雪は姿を、現さなくなった―――。

 

* * *

 

 冷めかけた珈琲が、優の心を表しているかのようだった。もしかしたら、いつまでも現れないのではないだろうか、なんて、そんな思いが脳裏を過ぎる。

 大切なものを、失った。

 そんな言葉では表せないくらい、大切なもの。沙雪。頬を伝い、優が零した涙は、まるで雪の結晶のように深々と流れ落ちている。

「沙雪、ちゃん…」

 優はか細い声で、その名前を口にした。と、その時。

「ごめんなさい…」

 声がした。誰も居なかった公園の、自分のすぐ背後で、女性の、しかも懐かしい声が…。慌てて振り向いた。其処には、思い出と寸分違わぬ、あの懐かしい人。

「…沙雪、ちゃん…」

 雫がまた、雪の上に零れ落ちる。

「ただいま、優ちゃん」

 少し、照れくさそうにそう告げる沙雪。

 雪が、何も言わずに二人の再会を祝福しているような、そんな気がした。

 

* * *

 

「私ね、怖かった」

 ふいに、そう告げる沙雪。

「私ね、優ちゃんが来なかった日、こう思ったの。『ああ、やっぱり人はこうなんだ』って」

「え?」

 優は意味がわからずに訊き返した。

「…憶えてる? あなたが『どうして雪って、すぐ消えるんだろう』って、言ったこと」

 頷いて応える優。

「私はなんて答えたでしょーか?」

 と、おどけて訊く沙雪。

「『皆最後には居なくなってしまうのと一緒だから』だったよね?」

 真剣に答える優。

「うん。だから、優ちゃんも同じで、最後には…って、思ったの」

 ズキン、と、胸が痛んだ。

「だから私、裏切られたのなら、私は必要とはされていないんだ、って思って、この場所には来ることが出来なかった。誰にも必要とされていないなら、私が居るべき場所じゃないんだ、って思って」

 無言を返す優つ。

「…私って最悪だよね。最初は誰かと触れ合いたくてこの場所に来たのに、最後には自分勝手に逃げていくなんて…。最悪、だよぉ…」

 そして、泣き出す沙雪。そんな沙雪をどう慰めたらいいか分からなかったが、優はただ、沙雪の肩を抱いた。…冷たかった。

「大丈夫だよ、誰も沙雪ちゃんのこと、責めてない」

 嗚咽だけの返事が返ってくる。そんなか弱い、一抹の存在であるような沙雪の背中を見つめていると、何も慰めの言葉が浮かんでこなかった。だから、それを理由に、優はいつのまにかこう、しゃべり始めていた。

「…沙雪ちゃん、そのままでいいから聞いてて」

 沙雪の嗚咽が幾分か小さくなった。優はずっと胸に秘めていた想いを告げようとしている。

「僕は何時の間にか、沙雪ちゃん以外の女の子のこと、考えられなくなってた」

 そう告げた瞬間、腕の中の沙雪が微かに震えたのが分かる。続ける。

「冬ごとにしか、逢えないんだよ? 逢ってる時はあんなに仲が良かったんだよ? 沙雪ちゃんのこと、気にならないハズがない」

 優は一息つく。

「僕は沙雪ちゃんが好きだ。ずっと傍に居る。だから『皆最後には居なくなってしまう』なんて言葉、取り消してよ。約束する、僕は沙雪ちゃんの傍からもう、離れない。どの季節だって、ずっとね」

 そして、優の言いたいことは全て終わった。沙雪の気持ちだけが、後は大切だった。

「………」

 吹き荒ぶ雪の中で、沙雪は今、ハッキリと自分の気持ちを告げた―――。

「その約束はね、優ちゃんが守れたとしても、私は守れないよ…」

 


 

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