Christmas Time>1999「雪原の幻に」>第03話「強く抱きしめたなら」

強く抱きしめたなら



 二人は先程見つけた洞窟に向って走り出した。時折足が雪の中に沈んだりしたが、全力を出して走り出した。その洞窟にすがるような思いを抱いて。

 やがて、洞窟の前に着くと、白い雪原に大きく開いたその穴の向こうを覗きながら、簡単の声を上げた。

「わぁ…」

「すげぇ…」

 洞窟の聖歌の交互を見つめながら、聖が呟く。

「どうする? 入ってみる?」

 その問いかけに聖歌は聖の方に向き直る。

「そうしよう、ここだけだもん。…他と違うの」

 その言葉を認識するかのように、周りを見渡す。やがて、裁決する言葉。

「…よし、行こう」

「うん」

 二人は今、一つになっていた。

 

* * *

 

 洞窟に一歩踏み出すと、足の刻む音さえ大きく響き、思わず何かにすがってしまう。

「………」

「………」

 二人は無言で手を取り合い、黙って先を見つめながら歩く。ただ耳にするのは、お互いの呼吸と、一際大きい足音だけで―――。

 前方を見ると、二つに道が分かれていた。左側は同じように、ただ闇が支配しているだけ。右側は微かだが、奥に光が見える。

「どっち行く?」

 聖が訊いた。

「そんなのずるい」

「え?」

 思いも寄らない言葉を聞き、思わず訊き返す聖。

「こんな大事なこと、私に決めさせようだなんて」

「…あ。ごめん…」

 ずっと聖を睨んでいた聖歌だが、やがて声を上げて笑い出す。

「…ぷっ。あははは…」

「は?」

 突然のことに、暫しの間我を忘れる聖。

「ごめんごめん…。聖って可愛いね。すぐ信じちゃう」

「ったく、笑うなよ」

 少々ふて腐れながらそう吐く。

「だから、ごめんって言ったじゃない」

 尚も笑いながら続ける。

「はいはい、世分かりましたよー、だ」

 …こんな気が病んでしまいそうなときだから、二人はわざとおどけあった。

 その時だった、ゴゴゴ、という音が響いたかと思うと、左側の道への通路が大きな岩によってふさがれてしまう。

「あっ!」

 近づこうとすると、岩と岩がぶつかり合い、その時生まれた破片が聖歌に向って飛んできた!

「キャッ!」

 聖は咄嗟に聖歌を抱きしめた。岩は聖の背中に当たると、満足したようにその場に転がる。

「………」

「………」

 痛みなど感じない。聖歌のいい匂いに包まれていたから。

「…大丈夫?」

 聖歌が白い吐息と一緒に、心配の言葉をかけた。聖は、ただ無言で聖歌を強く抱きしめた。

「…痛いよ」

 聖歌の呟きを聞いても、聖は離そうとしない。こんな時だけど、聖歌への切実な想いは激しく燃え上がっていた。

「聖歌、俺…。こんな時だけど、聞いてくれるか?」

 聖の真剣な声に押されて咄嗟に「うん…」と答える聖歌。

「俺、何もない男だけど…。聖歌を好きって気持ちだけは、誰にも負けない自信があるんだ」

「え?」

「聖歌。こんな時に卑怯だけど、俺、聖歌のことが好きだ。…愛してる」

「あ…」

 突然の聖の告白に、嬉しいのに戸惑ってしまう聖歌。

「…ありきたりのことしかいえないけど、俺の気持ちを伝えるためには、こんな言葉でしかいえなかったんだ。答えてくれなくてもいいよ。でも、頼むからこの場所だけは二人に一緒に出よう? その時、聖歌の答えを教えて」

 聖の言葉に頷く聖歌。

「良かった。じゃあ、右側に…」

二人は並んで歩き出した。手をしっかり握り締め。

 やがて、その光はだんだんと、しかし確実に近づいて行く。そして…。

「あっ、あれって…!」

 聖歌は急に、その光に向って走り出した。聖も後に続く。

 光の元に着くと、聖歌はその場にしゃがみこんだ。

「どうしたんだ?!」

「………」

 聖歌は振り向くと、少し微笑んで答えた。

「…おじいちゃん、見つけたよ」

 聖もその光の元を見る。それは、綺麗な…、本当に綺麗な花だった。

「これって、もしかして…」

「うん。夢で見た…。『クリスマスの花』だね」

 一輪だけ咲いたそれに手を伸ばす。少し聖歌はこう呟いた。

「神様、お願いです。私達を元の場所に返してください…」

 その刹那、二人の身体を白い光が包み…。

 目を開けた次の瞬間には、見慣れた町並みに身体を置いていた。

「………」

「………」

 二人はキョトンとした表情で見つめあい、そして、笑いあった。

「かえってきたんだな!」

「うん!」

 そして、なんの抵抗もなく抱きしめ合う。

「…なあ、聖歌。聖歌の返事、聞かせて」

 聖歌の耳元で呟く聖。

「…よ」

「え?」

「ヒドイよ。そんな恥ずかしいこと、女の子に言わせようなんて」

 聖の首に回した腕に、力を込めた。

「決まってるじゃない。私だって、聖のこと…」

 二人は気持ちを確かめるために、お互いの唇を塞いだ。そして、神は二人を祝福するように…。

「………」

「………」

 白い結晶は、何も言わずにただ、二人に積もっていった。


 

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2009年10月28日:デザイン改修