Christmas Time >2003「Courage」>第01話「プロローグ〜12月24日・夜」

プロローグ〜12月24日・夜



 それは、思いがけないプレゼントだった。

「メリー・クリスマス!」

 照明を落とした室内で、両親の歓喜の声が上がる。テーブルの上に並べられた料理が、その中央に置かれているクリスマスケーキの上に立つ、蝋燭の仄かな灯りで照らし出されている。

 佐伯 比奈子(さえき ひなこ)は、両親が子供みたいにはしゃぐのを見て、少しだけ笑った。

 照明が戻る。

「さぁ比奈子、お父さんとお母さんからのプレゼントだよ」 

 父親が部屋から出て、廊下においてあったプレゼントを持ってくる。

「開けてご覧」

 ニコニコ微笑む両親。比奈子は頷いてプレゼントの箱の紐を解く。

 クリスマス用の包装紙を丁寧に剥がして行く。程なくして現れた白い箱の蓋を開けると、中には何も、入っていなかった。

「…え?」

 比奈子は躊躇った。こんなことはかつてなかった。というか、どこのどんな家庭でもあり得ない話だと思う。

 最も、友達と呼べる存在のいない比奈子には、確かめようもないことなのだけれど。

「それは、なんだと思う?」

 父親が優しい声で語りかける。

比奈子は考える。

 アンデルセンの童話「裸の王様」がすぐさま脳裏に過ぎる。しかし今日はクリスマスイヴ。流石にその類の冗談ではないだろう。

「…良く判らない」

 比奈子は素直に答えた。父親は満足そうに頷くと、嬉しそうな声で答えを告げた。

「魔法だよ」

 マホウ。父親は確かにそう比奈子に告げた。

「…まほう」

 比奈子は繰り返す。

「この魔法は十二月二十五日にしか効果はないけど、その代わり、比奈子が望むものは何でも叶えてくれるよ」

 比奈子は父親の目を見た。その奥に嘘はなかった。続けて見た母親の目も同様だった。

「ありがとう。お父さん、お母さん」

 比奈子が言うと、父親は本当に嬉しそうに頷いた。そしてその手を比奈子の小さな頭の上に置く。

 比奈子は、と言えば、幼い自分を両親がからかっているように思えて良い気持ちはしなかった。



* * *



 クリスマスパーティーも終わり、明後日に控える終業式を乗り切れば、小学生生活四度目の冬休みが待っている。

 比奈子はランドセルに必要最低限のものを入れてベッドに入った。

 目を瞑る。

 すると、父親の言葉がよみがえる。

『魔法だよ』

 魔法。現実には有り得ない事象。

『この魔法は十二月二十五日にしか効果はないけど、その代わり、比奈子が望むものは何でも叶えてくれるよ』

 でも、もし本当に魔法が使えたら。

 そう考えかけて、比奈子は自らその思考を打ち消した。

 もしも。その言葉に意味を求めたからと言って何かが変わるわけではない。比奈子はそのことを知っている。



 クラスメイトの女の子たちは、比奈子と最低限の会話だけしかしない。昨日見たドラマの話や、読んでいる漫画の感想交換。そう言った類の話題は全くない。

 別に嫌われているわけではないと思う。ただ比奈子は人と接するのが他の人より少しだけ苦手なのだ。

 だけど本当は、比奈子は友達が欲しかった。共通の話題を持って、そのことに対して楽しくおしゃべりが出来る、そんな友達が欲しかった―――。